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「とんでもございません」という言い回しについての議論を、ご存じでしょうか。巷で言われるところ、「とんでもない」はそれ全体で一つの決まった言葉であり、「とん(で)」が「ある」「ない」というものではないから、「とんでもございません」との言葉は誤りだとされている、その賛否についてです。
言葉の成り立ちから言えば、「とんでもない」が分解できないものであることは、その通りだと思われます。少なくとも「とんでも『ある』」が先に、あるいは並行して用いられた、という話は聞いたことがありません。
では、これに比較的近い「申し訳ない」は、どうでしょうか。こちらは、「申し訳が立たない」からスタートしていると思われますが、「申し訳が」は主語、「立たない(立つ)」は述語です。この場合は、申し訳「ない」を「ありません」「ございません」の丁寧な言い方にすることも、認められそうです。
さて、これらは「言葉(表現)の変遷」に位置づけられる内容です。例えば私は、「彼氏」という言い方に違和感を持っていますが、「彼女」の方には、その言葉を最初に覚えた時から不思議を感じませんでした。実は「彼女」という三人称の代名詞は、明治時代に「she」の訳語として登場し、その是非を巡って議論が交わされた言葉だったそうです。1890年(明治23年)に書かれた森鷗外の「舞姫」において、主人公の恋人であるエリスのことは「かれ」で示されており、「彼女=かのじょ」という言葉は明治期に誕生した新しい言葉だったことがわかります(昭和十年代ぐらいまでは、異を唱える人がいたようです)。
このように、言葉というものは時の流れとともに変遷します。近年、最も顕著だったのは、いわゆる「ら」抜き言葉でしょう。私はこれを認めない立場ですが、今では巷の議論さえ終息し、ほとんどの人が当たり前に使っているのが現状です。私も子どもたちに日常会話レベルでは指摘しないこととし、「今の国語の文法の範囲では間違いだよ」と授業で教える程度にしています。
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「とんでもございません」も私は使いませんが、ここまで慣用化したものを否定するのも、いかがなものかと思います。では、「とんでもございません」の意を正しく表明するには、どんな言葉を使えばいいのでしょうか。正解は「とんでもないことです」になりますが、それでも敬意や謙遜の気持ちが十分言い尽くせないという場合、こう言えば良いのではないでしょうか。「とんでもないことでございます」と。
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