『プロ野球選手の妻たち』にみる、女の傲と剛と業

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2014年08月07日 10:01  MAMApicks

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2014年プロ野球のペナントレースも終盤に差し掛かってきた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。読者の皆様の心に一体どれだけプロ野球ネタが響くのか不安ですが、しかしプロ野球に興味はなくても、プロ野球選手の妻には興味があるという方はいるのでは……。

元楽天監督・野村克也氏妻である野村沙知代氏(=サッチー)、そして現中日GM・落合博満氏妻の落合信子氏(=ノブ)。この、モノマネはされてもすることはないプロ野球界の“ノブ&サッチー”を目指し、女子アナ、アイドル、タレント、女優、キャビンアテンダント、クラブのお姐さんというオンナ界の猛者たちが孤独な戦いを繰り広げているのです。

夫は成績が下がればチームを辞めさせられますが、夫が沈んだ時こそ“野球選手の妻”劇場最大のクライマックスシーン。それが面白くないはずがありません。


そんな、ただでさえ興味深いプロ野球選手の妻たちをさらに魅力的に見せてくれるのが、毎年恒例のこの企画『壮絶人生ドキュメント プロ野球選手の妻たち』(TBS)です。

今回で五回目を数える同番組。昨年は広島東洋カープのエース、前田健太投手の妻・成嶋早穂さんが、番組内で妊娠を発表するというビッグサプライズを仕掛けたにも関わらず、その後に出てきた現横浜DeNAベイスターズ心の二軍コーチ、中村紀洋の妻と子どもたちの落合信子チルドレンっぷりにすべてを持っていかれたというメイクドラマがありました。野球は9回裏2アウトまで分からないと言いますが、この番組もまた最後の最後まで何が起きるか分かりません。

そこで今回は、先日放送された『壮絶人生ドキュメント プロ野球選手の妻たち』、略して「プロ妻」を観賞しつつ、今後のプロ妻ライフが一層楽しくなること間違いなしの、「正しいプロ妻の鑑賞法」をご提案したいと思います。

壮絶人生ドキュメント プロ野球選手の妻たち|TBS
http://www.tbs.co.jp/suitoku/suitoku20140723.html

番組ホームページによると、「……番組を制作するのは『バース・デイ』や『プロ野球戦力外通告』など、TBSのスポーツドキュメンタリーを作り続けているチーム」とあります。

『バース・デイ』と言えばスポーツドキュメンタリーの世界に初めてコントの概念を持ち込んだことでも有名な番組。そしてよく考えればこのチャンネルは『情熱大陸』というお笑いアトランティスを発見した局です。ということは番組側が仕掛けたメッセージにどれだけ気づくことができるかが、プロ妻を楽しむ一つの指標となるでしょう。

今回登場するのは、福岡ソフトバンクホークス 松中信彦選手の妻・恵子さん、千葉ロッテマリーンズ 今江敏晃選手の妻・幸子さん、同じくロッテ G.G.佐藤選手の妻・真由子さん、元オリックスそしてメジャーリーガー 田口壮選手の妻・恵美子さん、さらには元楽天ゴールデンイーグルス 森田丈武選手の妻・由美子さん。

シンプルな成功者セレブ枠は恵子さん、姐さん枠が幸子さん、波乱万丈枠は真由子さん、突然の病が襲う枠は恵美子さん、健気庶民枠が由美子さん……といった分類になるでしょうか。それぞれが現在の幸せを披露しつつ、夫への家族へのご自身の献身度を世間にアピールするのです。

「夫を支える妻とか、何を前時代的なことを……」とイライラを露わにされる方もいらっしゃるでしょう。しかしここに出てくるのはプロ妻。金八先生方式でいうと「人という字は人と人が支え合って……」ですが、プロ妻たちは支える側が支えられる側を支えすぎて最終的には「人」が「入」になってしまう女たち。もはや“支エンターテインメント”なのです。

そしてその支エンターテインメントが最も端的な形で表されるのが、家庭料理。かつて信子が、「太っている人はホームランをいっぱい打つ。だから夫を太らせる」と毎食毎食テーブルに乗り切らない料理を作ったように、彼女たちもまた料理でメンチ斬りあいます。

今江選手の妻・幸子さんは紀ノ国屋インターナショナル、G.G.佐藤選手の妻・真由子さんはナショナル麻布で10個1,231円のオーガニック卵などの高級食材大人買い。プロ妻は「無農薬・オーガニック・野菜中心・ジュニアアスリートフードマイスター」が大好き。

そして、「私の料理で彼の偏食を克服した」という流れに持っていくために、大体出てくる選手は野菜が苦手という設定にされます。しかし今回この定石を崩すべくヒットエンドランを仕掛けてきたのが松中妻。

虫も殺さぬようなキュートスマイルで、「たまにしか帰ってこなくてそのときにすごく計算された食事を出すよりは、『今日トンカツがいい』って言われたら、『じゃあトンカツにしようか〜』とか、楽しくみんなが食事ができたらいいかな〜ってそういう感じなので」とサラリ。

これは、「結婚してから今まですべての食事メニューを記録している」という今江選手の10歳年上貫禄妻・幸子さんへの痛烈な当たり(ちなみに幸子さんはどことなく元ヤンチャの匂いがするので一番怒らせたくないタイプでした)。

ご自宅のインテリアもぜひ参考にしましょう。とにかくプロ妻たちはバットを飾りたがる人種だということが分かります。そしてとてもじゃないけど一人では掃除しきれなさそうな豪邸を、身重な身体で雑巾かけちゃう系でもあります。

ダスキン呼ぶなら100番100番知らないのかな……と一瞬不安になりますが、「願い事をしながら雑巾がけすると叶うって……パパ今日も打って!」とキラキラした笑顔で話すG.G.佐藤妻を見て、カネがあるなら家事は外注で〜なんて考えた筆者は、ホント支エンターテイナーにはなれないと痛感します。

その他にも、再現VTRに出てくる本人役のキャスティングが微妙だったり、CM明けに何度も北京五輪の野球競技でのG.G.佐藤の落球シーンが流れたり、スタッフたちの若干の悪意を感じる部分もありますが、それもこれもプロ妻たちのドラマ性をより引き立たせるスパイス。

「夫は夫、妻は妻」と頭では分かっていても、ダルの世話そっちのけでセレブライフを満喫していた紗栄子は叩かれ、ブログにアップするために美味しいご飯を……じゃない、マー君のために美味しいご飯を作り、それをあくまでも日常の一コマとしてブログにアップする里田まいは褒められる世の中です。

心のどこかに妻は母は夫を家族を支えるものだ、という強い呪縛があることは否めません。プロ妻はそんな気持ちが作り上げてしまった幻影。日本人が頭に思い描いてしまったマシュマロマンなのです。

しかしプロ妻たちにとっては、ジェンダーバイアスなどすっぽ抜けたフォークボールと同じ。持ち前の自意識で場外に飛ばしてしまうことでしょう。

今回の番組で最後に登場した森田選手のプロ野球人生はわずか3年。貯金を切り崩しながら、夫の実家に身を寄せる日々に妻・由美子さんも働く決断をします。バットを飾る豪邸もない、オーガニック卵を買う余裕ももちろんない、だけど……エンディングテーマが流れる中、カメラが映したのはミニスカート眩しいパチンコ店の制服をカワイく着こなす由美子さんの姿。決してお金では買えない「若さ」という資源を、最後の最後にぶちかましたのです。

アラフォーセレブプロ妻四人との圧倒的大差をひっくり返さんとする、これぞ女の業ですよ。
あぁプロ野球選手の妻って、本当にいいものですね。来年はどんな支エンターテインメントを見せてくれるのか、今から楽しみです!

西澤 千央(にしざわ ちひろ)
フリーランスライター。二児(男児)の母であるが、実家が近いのをいいことに母親仕事は手抜き気味。「散歩の達人」(交通新聞社) 「QuickJapan」(太田出版)「サイゾーウーマン」などで執筆中。


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