じん(自然の敵P)が体現する新しいプロデューサー像 物語作家として音楽を作るプロセスとは?

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2014年09月01日 10:20  リアルサウンド

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じん『daze / days(初回生産限定盤A)(DVD付)』(ウルトラシープ)

 じん(自然の敵P)は、2011年にニコニコ動画へボーカロイドを使った動画を投稿した。彼はその後、第三作目となる楽曲「カゲロウデイズ」の動画が圧倒的な再生回数を獲得し、やがてその一連の作品がすべてひとつの世界観による物語『カゲロウプロジェクト』であるとして、以後はこれに類する作品を順番に発表していく活動を主に行うようになった。それと前後してカゲロウプロジェクトはノベライズされたり、アニメになったり、コミカライズが行われたりして世界観の補完を行い、物語としての姿をよりはっきりさせていくことになる。そして、じんはそのすべてについて原作や脚本家など根本的な部分で制作に関わっている。


(参考:__(アンダーバー)が語る、ネットの変化と新作のコンセプト「ニコニコの時の流れだけやけに速い」


 ここにいたって、つまり彼はサウンドクリエイターでありながら(というよりも)物語作家であることがわかるだろう。音楽で物語を表現しようとする動きはニコニコ動画において増え続けている。歌詞に歌われる内容は歌い手自身ではなく「登場人物」の心情を表したものになっているし、その語りかける内容から物語の経緯を推測して楽しむというリスニング形態が広がっているのだ。中高生が多いと言われるニコ動ユーザーにとっては、物語を楽しむことが第一に求められており、それに応じて音楽というジャンルに望まれる内容が変わっていったのかもしれない。


 近年のボカロ楽曲の例にもれず、カゲロウプロジェクトの動画も何人かのチーム体制で作られている。つまりカゲロウプロジェクトの楽曲は、基本的にサウンドを担当するじんと、ビジュアルを担当するしづやわんにゃんぷーなどのクリエイターとのコラボレーションによって成り立っている。このようなコラボレーションを行うボカロ楽曲は最近はどんどん増えているし、カゲロウプロジェクトはその成功例のひとつと言ってもいい。しかしそれでも、じんには彼を単なるサウンドコンポーザーではなくプロデューサーとして捉えたくなるような点がある。それはやはり前述のように、彼がいくつかに広がったカゲロウプロジェクトのメディアミックスのいずれにおいても、物語の核となる部分を担当し続けているということだ。


 じんはニコ動に発表する動画においてサウンドや物語を担当しているだけでなく、アニメでも脚本をやっているし、コミカライズで原作をやっている。つまりここには、カゲロウプロジェクトの物語のコアの部分は自分自身が管理しようという強い意志を感じる。おそらくこの先、こうして音楽をベースにして物語を表現し、さまざまなメディアミックスを展開していく作品は増えることはあれど、減ることはあるまい。しかしそうなった時に、じんのようにあくまでもすべてメディアにおいて物語を自分で管理しようとする者が多くいるかどうかは疑問だ。むしろ彼はその意味においてレアケースのように思える。


 言い換えるなら、彼はただの音楽プロデューサーではない。彼がやっているのはカゲロウプロジェクトという、音楽もその中に含んだ、もっと大きなカテゴリーで捉えられるべきもののプロデュースをしているのだ。そして、音楽を担当している自分もまた、そのプロデュースの一環に組み込まれている。


 カゲロウプロジェクトは、かつて桑田佳祐や小田和正やカールスモーキー石井などのミュージシャンが急に映画を撮りだしたようなこととも違う。じんは映像については、あくまでもそれぞれの分野のプロに担当させたがっている。しかし物語の根幹部分については彼独特の判断があり、それに沿って制作を進めようとする。その意味で彼は圧倒的に物語作家であり、音楽を作る自分もまたその物語に付き従っていることになる。しかし彼の物語とは、まず音楽を発端としてしか表れてこない。そこが面白い。じんが物語を第一に考えており、音楽を重視していないならば、もはやそれは音楽プロデューサーの地位が下げられているように思う人もいるだろう。しかしじんがやっているのはむしろ常に音楽プロデューサーという地位から始まって、それが他分野にまで拡張されていくことなのだ。(さやわか)



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  • メディアの表現形態がどれだけ進歩し多様化しようとも、「物語」は常にその根幹にあり続ける。
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