兵站を無視した「戦線拡大経営」は日本軍と同じ――すき家も陥った「失敗の法則」

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2014年09月19日 17:11  弁護士ドットコム

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「お金の専門家」である税理士は、ビジネス書を読んで何を考えるのか。ベンチャー企業の支援に取り組む中村真一郎税理士が、経営コンサルタントで税理士の岡本吏郎氏の著書「長く稼ぐ会社だけがやっている『あたりまえ』の経営」(フォレスト出版、2014年5月発売)を読んで、書評を寄せた。


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●成功企業が実践する「当たり前の経営」


本書は、経営学者をしのぐほどの膨大な知識にもとづいて「当たり前の経営」の大事さを説く前半と、「節税の常識」の変化を説いた超実務的な後半に分けられます。



税理士としては後半も面白く読んだのですが、それ以上に興味をそそられたのは、経営戦略について、様々な引用をもとに語る前半部分です。



経営の世界では「ブルーオーシャン戦略」や「プラットフォーム戦略」など、とかく新しい何かが求められる傾向にあります。経営者は常に不安であるため、確実に成功できる「何か」を求めたがるものです。



しかし、ほとんどのことは言い尽くされています。成功する人や企業ほど、革新的な手法などではなく、当たり前のことを当たり前に、愚直にやり続けているというのが、4000社を超える会社設立をサポートしてきた私の感想です。



この本も「当たり前の経営」の重要性を繰り返し説いています。



●運の世界へ飛び立つ「恐怖のV字ターン」


著者はビジネスを「運の影響度合い」で分けることを提案しています。たとえば、中小企業の場合、創業期は運の影響度は高いはずです。そこから技術力を高め、顧客名簿を増やしながら実力の影響度を高めることになります。しかし、いつまでも実力を高めることをせず、運に頼った経営を続ける人もいます。



さらに、実力が多少ついた段階で、規模拡大を狙い、運の世界へ飛び立つ経営を選択してしまう人もいます。著者はこのことを「恐怖のV字ターン」と呼んでいます。



人材の育成も追いつかないまま、売上を上げるために出店を繰り返す。戦争にたとえれば、補給や輸送、整備などの「兵站」を無視した戦線拡大であり、戦前の日本軍の失敗と同じです。最近の「すき家」の失敗などは、まさに典型例ではないでしょうか。



著者は、やみくもに売上・利益を増やすことを目指すのではなく、年々実力をつけ、運の影響を減らしていくべきだと主張しています。当たり前の積み重ね、兵站の重要性を説いています。こういったリスクを減らす経営には、私も同意します。



●「兵站」を無視して進む決断が「吉」と出ることも


しかし、少し反論もあります。



この考え方を重視しすぎると、会社の発展が心配になるという点です。起業して一気に行くときは、兵站すら無視し、ある程度の成果を挙げてから兵站を気にするようになる会社のほうが、10年後の安定度は高いと感じています。



著者の言うように、兵站を無視した戦線拡大は「失敗の法則」の一つであることは確かでしょう。しかし、「それでもなお進む」という決断が吉と出ることがあるのも、経営の面白いところです。運の世界へあえて飛び出し、戦線が拡大しすぎないうちに、うまい具合にバランスを取るのです。



このバランス感覚を経営者がどの程度持っているかが最も重要でしょう。バランスを「崩す→取る→崩す→取る」という感覚です。この感覚の優れた人が、会社を長期的に伸ばすことができるのではないでしょうか。



とはいえ、ビジネス書において、著者のような「保守的思考」を教えてくれる人はほとんどいません。逆の「革新的思考」のほうが圧倒的に多いですから、自分の思考のバランスを取るという意味でも、この著者の考え方を知っておいて損はありません。ぜひ多くの経営に関心のあるビジネスパーソンに読んでほしい本です。



【取材協力税理士】


中村 真一郎(なかむら・しんいちろう)税理士


多くの企業の会社設立、会計業務立ち上げを経験し、独立の大変さを肌で感じ、税理士の使命は中小企業経営者のよき理解者となり、共に発展していくことだと強く認識する。2003年8月ベンチャーサポート総合会計事務所を設立。現在も変わらず「起業家を全面的にサポートする」ことを人生最大の使命と考えている。 


事務所名   : ベンチャーサポート税理士法人


事務所URL:http://www.venture-support.biz/


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