「たくさんケンカをしてね」の祝辞に今さらながら思いをはせる

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2014年11月06日 10:31  MAMApicks

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今年の夏、娘と日中を過ごすため頻繁に支援センターの広場に通っていた。
ある日、娘がお気に入りのおままごとセットで遊ぼうとしたところ、2歳半くらいの女の子が、「それは○○ちゃんのものなの!」と娘からおもちゃを取り上げた。娘は泣くでもびっくりするでもなく、別のおもちゃで遊ぼうと隣のスペースに歩いていった。


びっくりしてしまったのは私の方だった。
子どもができてからというもの、どこの子も可愛いな、無垢な存在だな、と崇め奉っていたので、強い口調、強い表情で立ち向かわれて戸惑ってしまったほどだ。

普段できるだけ、「女はこういう生き物だ」「男はこれだから嫌だ」というバイアスがかかったジェンダー論は講じないようにしている。だけど、このときばかりは「いやだ、女の子の子育て、めんどくさいかも……」と思ってしまった。

2歳も過ぎると意思の主張がハッキリできるようになるんだな、幼児といってももう「女」なんだな、などと考え出すと、気が重くなり頭を抱えそうになったが、次の瞬間にその女の子はまた別の子に、「これは○○ちゃんのなの!」と食ってかかり、さらにその後は弟らしき男児と取っ組み合いを始めていた。

……そして気付いた、ああこれは女だ男だの問題ではなくて、この子が特別にケンカっぱやい性質なのだと。

娘はすごくおとなしい性格で、子どもたちが集まる場になるとフリーズしてしまうことがたびたびある。とくに行動が活発になり出した赤ちゃんには、逆に手を出されて泣くこともあり、今のところ全戦全敗している。

気持ちの優しい子になってほしいなとは思う反面、たくましさもある程度は必要だ。集団生活をするようになれば変わりそうだけれど、今はまだその打たれ弱さも見守るしかないのかな、というかんじである。

また、我が家は第2子の予定がないので、恐らく娘はきょうだいゲンカというものを経験せずに育つことになる。ということは誰と最初にケンカするの……? え、私?


しかし問題は私がものすごくケンカが苦手ということだ。私は幼少期からあまりケンカというケンカをしたことがない。

2つ上の兄もどちらかというと穏やかな性格で、したとしても口ゲンカくらい、親が仲裁に入るほどのケンカはしたことがない。兄弟ゲンカで骨折した、なんて同級生の話を聞いたときは、どんな生活をしているのだろうと疑問を抱いていた。

そんな性格なので、夫とも今までほとんどケンカをしたことがない。
私が叱られることはあるのだけれど、大抵は私のだらしなさや粗忽さが原因なのでやむなしと思っているし、SMAPの『セロリ』の歌詞じゃないが、育ってきた環境が違う人間なのだから多少の不満くらいはあるだろう。諦めているわけでも、割り切っているわけでもなく、本当にそう思っているのだ。


昨年(2013年)の初め、『最高の離婚』というフジテレビ系のドラマが話題になった。
瑛太さんと尾野真千子さんが演じる元・夫婦と、真木よう子さんと綾野剛さんが演じる夫婦が繰り広げる会話の中でも口論や長ゼリフがハイライトで、SNS上でも非常に盛り上がっていたので、その評判を受けて私もぼんやりと見ていた。

たしかに面白かったのだけど、女性が男性に強い口調で詰め寄るシーンは私にはヘビーすぎて、フィクションだとは分かっていても、「私こんなこと思ってても絶対言えない……」とどんよりしたほど。これを痛快と思う気持ちはちょっと分からないな、というのが正直な気持ちだ。

思い返すと小さいときは両親がケンカをする様子がイヤだった。何が原因なのか、どちらが悪いのかはよく分からなかったけど、いがみ合う姿は醜いなと、幼心に思っていた。それだけ私にとってはケンカというのはネガティブなイメージ一色なのだ。


しかし、ケンカをした方が夫婦関係が長続きするというデータがあるそうだ。
『夫婦ゲンカで男はなぜ黙るのか』(タラ・パーカー=ポープ 著 古草秀子 訳/NHK出版)によると、「男性では三人にひとり、女性では四人にひとりが、夫婦げんかの際に感情を隠す。けんかの際に感情を口に出さない人は、十年間の研究期間のなかで、思ったことをいつも夫に言う人に比較して死亡率が四倍である」というデータが紹介されている。


四倍って結構な数字だ。やはり感情を口に出さないということがストレスとなり、身体にも悪影響を及ぼすということだろうか。ただ、ケンカの仕方にもコツがあるようで、「感情的な会話をしたときのほうが、穏やかな話し合いをしたときよりも、傷が治るのに丸一日長くかかった。なかでも激しく敵意をむきだしにして話し合った夫婦は、そうでない夫婦よりも二日間長くかかった」というデータもあり、もっとも重要な要素は、夫婦ゲンカを「エスカレートさせない」能力なのだとか。

本書、結婚や夫婦関係というものを科学的に検証していてかなり興味深い。
もちろん人間の感情なんて何でもかんでも科学で解明できるわけではないのだろうが、数字やデータを引き合いに出されるとつい納得してしまうサガ。

私自身はケンカに消極的なタイプだけど、小さいときからケンカに慣れている人というのは人付き合いに長けているというか、ケンカをしても関係を切らさない下地ができている印象がある。

それだけ人を信頼しているし、信頼されている自信もあって、それは積み重ねによるものなのだろう。経験値の差、要は場数を踏んでいるかどうかなのだろうと、ケンカ慣れしていない私でも分かる。私が思う以上に、世の中の人がしているケンカというのはさっぱりとしていて、尾を引かないものなのかもしれない。


そういえば私の結婚式で、当時の職場の先輩が夫婦関係のアドバイスとしてこんな祝辞を述べてくれた。
「たくさんケンカをしてね、雨降って地固まるって言うから。」
雨降って地固まる、結婚式の挨拶で定番の「三つの袋」みたいな感じで、その時は「ベタやな〜」と言いそうになってしまったが、ケンカをしてね、と言ってくれた先輩の気持ちが、ようやく少しだけ理解できるような気がする。

ケンカって、感情のままにむやみやたらと言い合うということではなくて、ちゃんと話し合いをしてね、という意味だったのだろうと理解している。

真貝 友香(しんがい ゆか)
ソフトウェア開発職、携帯向け音楽配信事業にて社内SEを経験した後、マーケティング業務に従事。高校生からOLまで女性をターゲットにしたリサーチをメインに調査・分析業務を行う。現在は夫・2012年12月生まれの娘と都内在住。

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