東京都スタートアップコンペを制した女性起業家の想い

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2014年11月19日 11:10  FUTURUS

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FUTURUS

FUTURUS(フトゥールス)

11月16日(日)、都内丸ビルホール&コンファレンススクエアの会場で、「TOKYO STARTUP GATEWAY 2014」の最優秀賞と優秀賞が発表された。

今回は会場での取材内容を、2回に分けて紹介したい。

「TOKYO STARTUP GATEWAY 2014」は、テクノロジー、ソーシャルビジネス、地域課題解決など様々なジャンルにおいて、グローバルを見据えた若き起業家を「東京」から輩出しようというコンテスト形式のイベントだ。

東京都が主催し、NPO法人エティック(ETIC.)が運営事務局を担当した。

2014年の5月からビジネスプランを公募した結果、首都圏のみならず、アジアを含め448件のビジネスプランが集まった。

それらの中から選抜された10名のファイナリストが会場に集まり、熱いプレゼンテーション合戦を繰り広げた。

オーディエンス賞1名と優秀賞2名の発表

まず発表されたのは、「オーディエンス賞」。これは当日のプレゼンテーションを視聴した来場者の投票で、最も支持されたファイナリストが与えられた賞だ。

授賞したのは嘉数正人(かかずまさと)氏。嘉数氏のアイディアは、工場や農場の作業現場で使用されている猫車とも呼ばれている一輪の手押し車を電動化するためのキット「E-cat Kit」の開発だ。

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クリスタルトロフィーを受け取った嘉数氏は喜びを語った。

「ありがとうございます。プレゼンでは段取りが乱れて誤解を生むピンチに陥りましたが、審査員の方々からの質問にフォローされてなんとか結果を出せたかと思います。未熟さがありますが、応援して頂けたことで、前へ進むことができます」

嘉数氏と「E-cat Kit」ついては、別途取材したので、次回の記事で改めて紹介したい。

そして優秀賞の1人目には中村翼氏が受賞した。

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中村氏のアイディアは、「誰もが自由に空を飛べる時代を創る『空飛ぶクルマ』の実現」というタイトルだ。

都市部の渋滞や、道路が無い地域での新たな交通インフラとして、旅客機ではなく、個々人が自動車の様に自由に移動できる「Skydrive」という自動車ほどの小型飛行機を提案するというものだ。


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これは荒唐無稽な話では無く、2020年の東京オリンピック開会式で華々しいデビューを飾る予定だという。

受賞した中村氏は次の様に語った。

「大変素敵な賞をいただきありがとうございます。今年初めから縮小版の試作機を作成しており、やっと飛び始めた段階です。来年から原寸の試作機に取りかかる予定です。そのための資金も必要でしたし、人々から支持をいただけるかどうか知りたくて応募しました。受賞を励みに、明日からもメンバー達と議論を重ねていきます」

なお、「Skydrive」は現在、クラウドファンディングで資金調達中だ。

二人目の優秀賞は、なんと「オーディエンス賞」とダブル受賞になった嘉数氏だった。

審査員による評価点は、嘉数氏がまだ21歳と若いことと、今回受賞対象となった「E-cat Kit」以外にもまだまだ新しいアイディアを出してくれそうな伸びしろを感じた部分だという。

最優秀賞はアフリカの農村部に薬を提供するソーシャルビジネス

最優秀賞は町井恵理氏が受賞した。

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町井氏の事業プランは「日本発『富山の置き薬』システムを活用し、アフリカの農村部へ薬を提供するソーシャルビジネス」というタイトルだ。

経済発展著しいと言われるアフリカだが、貧富の差は激しい。特に医療においては全人口の2/3が暮らす農村部では、まともな医療が受けられずに命を落とす者が多いという。

町井氏はこの現状を変えるために、同じようにインフラが未発達であった時代の日本で活躍した、「富山の置き薬」システムが応用できると考えたという。

町井氏はそのアイディアを実現すべく、製薬会社に勤務する傍らNPO法人「AfriMedico」を立ち上げている。

審査員である野村浩子氏からの評価は次の通りだった。

「目線の高さと志の高さが素晴らしい。個人的体験がきっかけとはいえ、その後の勇気と行動力が素晴らしい。志を実現するために、グロービズ経営大学院で学び直し、理論構築から始めている。さらにアフリカに行き現地調査を行った。内向きと言われる日本の若者に対する印象を覆してくれたのではないか。また町井さんは新しい女性起業家だと言える。第一世代は女性ならではの目線とアイディアで起業した人達だった。第二世代はコンサルタント出身などビジネス経験を活かした起業家だった。そして町井氏が示してくれた第三世代の女性起業家は、問題意識から起業しているのが特徴だと言える。非常に頼もしく感じた」

町井氏は語った。

「今まで、アフリカでそんなことが実現できるのか、と言われ続けてきました。それでも共感者が増え、今では20名の仲間が揃いました。この授賞は、私だけでなく、メンバーも勇気づけられたと思います」

町井氏については直接話を伺えた。

町井氏によれば、アフリカでは医療が無料であるために破綻している部分もあるという。無料な物は不要でももらっておこう、という人々の素朴な行動様式が原因だ。つまり、常に誰かを頼る姿勢に堕落するのである。

その結果、肝心なときに診療が受けられなかったり、薬を入手できない状況に陥っている。しかし自助努力はしない。つまり無料の支援なら良いという訳では無いのだ。

一方、保険制度はなく、病院や薬局までのインフラも無く、受診料も高いために医療サービスを受けられずに命を落とす場合も多い。

これらの両極端な問題を解決するために取り入れたのが「富山の置き薬」システムだ。家庭や公共の場に無料で薬箱を設置し、使用した分だけ費用を負担させるという仕組みだ。

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この方式であれば有料であるため薬の無駄遣いに歯止めが掛かり、遠い病院や薬局に行かずに重病化を防げる可能性がある。同時に、利用者側に医療に関する知識も増えていく。

そして町井氏たちが目指しているのは、アフリカの人々の健康への寄与と日本製薬業界の更なる発展を両立させ、日本とアフリカの架け橋となることだという。

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主催側の想い

授賞式の最後に東京都産業労働局局長の山本隆氏が挨拶として語ったことをまとめると以下の通りだった。

「受賞者の方々、おめでとうございます。ファイナリストの皆様も、素晴らしいプレゼンテーションをありがとうございました。大変難しい審査だったと思います。応募されたアイディアは皆、強い動機と目的意識によるものであることを感じ、心強く思いました。東京、また日本の未来は大丈夫だと感じました。これまでも日本が苦難の時代に、未来を切り開いてきたのは起業家精神溢れる若い方々でした。沈滞ムードがある日本ですが、2020年には東京オリンピック、パラリンピックが開催されます。それまでに皆さんの力で新たなイノベーションが起きてくるでしょう。課題も多く出てくるでしょう。東京都もサポートします」

また、審査員長の村口和孝氏はおおよそ以下の様に締めくくった。

「皆さんの事業計画は素晴らしいものばかりでしたが、その構想は世界に通用するかどうかといえば、まだまだ固まっているとは言いがたい。そのことを肝に銘じておいて欲しい。今日がゴールでは無く、まだスタートラインにも立っていないのです。どのアイディアもまだまだ乗り越えねばならないハードルもあるでしょう。試行錯誤も必要でしょう。そこから何かが出てくるのです。起業に必要なことは3つ有ります。情熱、事業機会、ケイパビリティです。今回のコンテストが、その出発点になれば良いと思います」

最後に舞台に揃ったファイナリストたちの笑顔は、これから訪れる数々の障害を乗り切れるであろうことを感じさせてくれた。

*画像出典:医療支援団体AfriMedico

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