トヨタ自動車が12月15日、世界に先駆けて発売したことでTVニュースなどで報道され、その存在が認知されつつある水素で走る燃料電池車。
Fuel Cell Vehicle(フューエル・セル・ビークル)を略して『FCV』とも呼ばれ、水しか排出しないことから、究極のクリーンエネルギー車とされている。
そこで今回は、なぜハイブリットではなく、電気自動車でもなく、“水素”を使った『FCV』が注目されているのかを紹介する。
水素が注目されている理由
資源が乏しい日本にとって、海外に頼らざるを得ないガソリンや軽油などの化石燃料は、生産国の思惑で常に生産調整されており、戦争勃発など政情によっては突然高騰するといったリスクを抱えている。
ましてや供給が絶たれた場合、国としての生産活動がストップしてしまう可能性もある。
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それに対して水素は、太陽光や風力で得られる電力で水を電気分解したり、バイオマス等の再生可能エネルギーからも作り出す事が可能だ。
例えば水素を活用した都市づくりを目指している福岡市では、家庭から出る下水汚泥から水素を作り出す取り組みが行われている。
汚泥から発生するメタンガスを分解することで得られる水素を『FCV』に、一方の二酸化炭素をハウス農園で野菜栽培に利用しようという取組みだ。
このような水素を中心としたエネルギー自給の狙いが国をあげて水素社会を目指す背景にある。
燃料電池車『FCV』は電気自動車の仲間
『FCV』が災害発生による停電時などに約1週間分の家庭用電力を支える貴重な“電源”として活用できる事も、政府が普及を後押しする理由の一つだ。
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『FCV』はエンジンを搭載しておらず、バッテリーに貯めた電気でモーターを回して走行する点では電気自動車(EV)と何ら変わらない。
最大の違いは、その電気を『FCスタック(燃料電池)』と称する発電機を使って発電する点である。
ここでは細かい説明を省くが、『FCスタック』内で水素と空気中の酸素を化学反応させ、その際に発生する電気を利用している。極論すれば、外部電源を必要としない自家発電機付きの『EV』ともいえる。
1回の水素充填で約500kmの実走行が可能
そこで気になるのは、『FCV』に水素を充填するための水素ステーションの数だろう。
現時点で目処が付いている水素ステーションは40箇所程度だが、2015年度内には東京、名古屋、大阪、福岡の4大都市を中心に約100箇所程度にまで拡大される予定だ。『FCV』の販売も水素ステーションに近い販売店が中心となるだろう。
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1回の水素充填(約3分)で走行できる距離はカタログ値で650kmとなっている。走行条件や電装品の使用状況によっても航続距離は異なるが、トヨタによれば実力値として400〜500km走行することができるという。
平均的な月間走行距離を1,000kmとすれば、月に2〜3回程度水素を充填しておけばよいことになり、都市部でFCVを利用するなら当面は何とかなりそうだ。
水素の価格は現時点でガソリン車と同等の1,100円/kg、2020年以降は半分以下の500円/kgになると予想されている。
余談になるが、トヨタ『MIRAI』が1km走行する際に排出する水量は約60cc。仮に500kmを一気に走行する際には約30Lもの水を排出することになるが、インパネに設けられたボタンを押すことで随時、または任意の場所で一度に排出することも可能だ。
水素は自然発火せず素早く拡散する
700気圧に圧縮された水素を搭載することになるのだが、爆発などの危険なイメージを連想する人もいるかと思う。
しかし、水素は濃度4%以上の状態で静電気程度のエネルギーが加わると着火するものの、逆にその条件が重ならないと自然発火はしない。
しかも地球上で最も軽い気体のため、もし漏れても即座に拡散、例え着火してもガソリンのように燃え続ける事がなく、瞬時に鎮火する特性がある。
つまり、万が一漏れても充満しなければ水素はガソリンよりも安全ともいえる。
水素とガソリンの燃焼比較試験(左側が水素搭載車)
2020年以降『FCV』販売が本格化
日本における『FCV』市場は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年前後に本格化し、年間約5万台の販売が見込まれている。
その後2025年に約20万台、2030年に約40万台、それに伴ってもたらされる経済効果はそれぞれ約8千億円、約2.2兆円、約4.4兆円になるとされている。
2015年の早い段階でホンダがトヨタに次いで『FCV』を発売予定で、トヨタも『MIRAI』に続く既存車種の1バリエーションとして『FCV』版を設定していくことになりそうだ。
筆者も実際に両社のFCVに試乗しているが、非常に静かで滑らか、且つ低重心で安心してコーナーをクリアできる印象。
EV同様に発進加速が鋭く、しかも加速Gが持続するその独特な走行感覚はこれまでのクルマにはないもので、一度何かの機会に経験されることを薦めたい。