慰安婦、植民地、原発――公開中止の「タブー」作品を集めた「表現の不自由展」

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2015年01月25日 14:11  弁護士ドットコム

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展示の中止や撤去、自粛などに追い込まれ、人々の目に触れる機会を奪われた芸術作品の展示会「表現の不自由展〜消されたものたち」が2月1日まで、東京・練馬区のギャラリー古藤で開催されている。


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この展示会は、大学教授や編集者、美術批評家、市民グループなどでつくる実行委員会が、「表現の自由」を見つめ直すきっかけにしようと企画した。11坪ほどの小さなギャラリーに、戦前の植民地支配や慰安婦、昭和天皇、原発など、日本社会で「タブー」とされることが多いテーマをモチーフにした約20点が並ぶ。



●「表現の自由の侵害は、受け取る側の『知る機会』も奪う」


ひときわ目を引くのは、ギャラリーの左端に展示された「平和の少女像」だ。韓国の日本大使館前に設置されているブロンズ製の「慰安婦少女像」のレプリカで、韓国の芸術家であるキム・ソギョンさん、キム・ウンソンさん夫妻が制作した。今回は、等身大にかたどった像と、縮小したブロンズ像の2体が展示されていた。



このうち縮小版のブロンズ像は、2012年8月に東京都美術館で開催された「第18回JAALA国際交流展」に出品されたが、特定の政治・宗教に関連し、運営要綱に抵触するとして、撤去されたという。「本家」である韓国の日本大使館前の少女像については、「外交公館の尊厳が傷つけられ、日韓関係にも悪影響が及ぶ」として、日本政府が撤去を求めているという背景がある。



椅子に座った少女は素足で、よく見るとその足は宙に浮いている。これは「慰安婦」だった少女が置かれた険しい環境と、不安な心情を表しているのだという。また少女の隣には椅子が置かれ、観覧者が自由に座ることができるようにされていた。



展示会の共同代表をつとめるフリー編集者の岡本有佳さんは「制作者のキム夫妻はこの少女像について、触ってもいい、写真を撮ってもいい、隣に座ってもいいと言っています。全てを含めてアートです。少女の隣に座り、同じ目線で見ることで、心を通わせて平和を祈ってほしいという想いが込められています」と語る。



今回の展示会の意義について、岡本さんは次のように話す。



「表現の自由の侵害は、表現者の自由だけではなく、受け取る側の『見る・知る機会』も奪う行為です。ところが、かつて最大のタブーとされていた天皇や戦争の加害責任だけではなく、今は原発や憲法9条など、タブーとされるものの範囲が拡大しています。日本社会で今、何が起きているのかを目に見える形にして、表現の自由について考えるきっかけを作りたい」



●「映画館も雑誌もテレビも、リスクを取りたがらない時代」


1月21日には、南京事件をテーマにした映画『ジョン・ラーベ〜南京のシンドラー〜』の上映会と、展示会の共同代表をつとめる永田浩三・武蔵大学教授のトークイベントが開かれた。



この映画は、2009年、ドイツ・フランス・中国の合作で作られた。1937年の日中戦争のさなか、ドイツ・シーメンス社の南京支社長だったジョン・ラーベは、南京を占拠した日本軍から市民を守るために、仲間の欧米人とともに南京城内に安全地帯をつくった。そこで見た光景が描かれている。



香川照之や柄本明など日本人俳優が多数出演しているが、日本での劇場公開はなされず、DVDも発売されていない。ドイツでの上映から6年が経った今も、日本では自主上映会を開催するしかないという。



なぜ日本で劇場公開がされなかったのか。その理由について、永田さん「かつて『南京1937』という映画を日本で公開したとき、ある男が映画館のスクリーンをナイフで切りつける事件が起こりました。今回も、物議をかもすことを恐れたのではないでしょうか」と指摘する。



そのうえで「表現」をめぐる今の社会状況について、次のように話していた。



「映画館も雑誌もテレビも、リスクを取りたがらない時代。差し障りのあるものをやるなら、リスクを上回るメリットがなければ手を出しません。しかし、ダメだ、リスキーだと言われるものの中にも、良いものはあります。リスクを取ると、応援してくれる人も必ず出てきます。



戦争は、歴史の負の部分として見ないようにする人もいますが、そこから感じたり、学べることも、たくさんあるはずです」


(弁護士ドットコムニュース)



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  • 南京事件をテーマにした映画『ジョン・ラーベ〜南京のシンドラー〜』の上映を日本国内でも行っていこうではないか。それこそが「表現の自由」ではないのか!
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