「ピケティ」本が売れるか心配でした〜弁護士会館「名物書店長」インタビュー(上)

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2015年02月15日 11:51  弁護士ドットコム

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「訪れる客のほとんどが弁護士」という珍しい書店がある。東京・霞ヶ関の弁護士会館の地下1階に店を構える「弁護士会館ブックセンター」だ。そこに、多くの弁護士から頼りにされる「名物店長」がいると聞いて、インタビューに行った。15年前の開店以来、法律本と向き合ってきた長田和美さんだ。


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開店当初は「以前あった書店と違うね」とつぶやかれたというが、今では常連客に「勉強熱心だから」と信頼される存在に。「自分が気に入れば、面白そうなものは漫画でも置く」という長田店長に、具体的なオススメ本をあげてもらいながら、本選びのポイントや、売れ筋からみえる最近の弁護士事情について聞いた。



●面白そうな本は「漫画」でも置く


――法律書店ですが、よく見ると、一般書店でも並んでいるような本が置かれていますね。



自分が気に入れば、面白そうなものは漫画でも置きます。自分勝手な置き方ですけど、自分が良いと思ったら、経済系だったとしても。



最近では、トマ・ピケティの『21世紀の資本』(山形浩生・守岡桜・森本正史訳/みすず書房/5500円)です。周りの評判が良かったですし、問屋さんにも勧められました。テーマの『格差社会』は、法律の労働分野に関係なくはないな、と思って置いてみました。



お客さんの先生方からは「ブックセンターにピケティがあるのか!」と驚かれましたが、やはり、すぐに売れ切れました。ピケティをテーマにした号の『週刊東洋経済』(1/31号)も置いてみましたが、これもよく売れていますね。実は内心、「ちゃんと売れるかな?」と心配していたんですが。



弁護士の先生方の知的レベルが高いこともあるでしょうし、一般書籍としては高額な価格設定でも、法律書と比べれば驚く金額ではありませんから、偏見なくお買い求めいただいたのだろうと思っています。



――最近の売れ筋を教えてください。



法改正の動きがある民法の債権法、今年施行される改正会社法の関連本のほか、時期的に、確定申告がよく動いています。



――定番のベストセラーは何かありますか。



交通事故、離婚、遺産分割は、常に売れています。また、労働問題も人気です。家には家の、会社には会社の、いろいろなトラブルがありますから、先生方に相談がくる。家事や労働の分野は普通の人にとって、それだけ密接なものですから、結果的に関連本も多くなります。



●法律と数学が融合した新ジャンルが登場


――家事の中でも、特に売れているものはありますか。



ハーグ条約に正式加盟した昨年、子の引き渡しに関する本が売れました。また、家庭裁判所の手続きが変わったり、相続税の増税があったことで、相続関連もよく売れています。



特にいま伸びているのは、「成年後見」の分野です。お年寄りが増える一方で、「子どもがいない」あるいは「子どもがいても親の面倒を見られない」というケースが増加して、弁護士や司法書士の先生のところへお話があるのだと思います。



結婚しなければ離婚しませんし、交通事故に遭わなければ交通事故の相談もありません。でも、どんな人にも普通、親がいるものです。これからの問題として、成年後見のニーズはますます増していきそうです。



――最近、注目されているジャンルはありますか。



法律と数学が融合したような本も最近、出てきましたね。ロースクールのおかげで、いろいろなバックグランドをもつ弁護士の先生たちが増えて、理工系の人が弁護士さんをやっていらっしゃったり、興味や関心も広がってきたのかな、と思っています。



また、今回の会社法改正では役員の責任が厳しくなっているようですが、弁護士の先生が顧問をしている会社で不正会計があったりして、会社が出す数字を鵜呑みにできない時代になってきたのかな、と。「法律と数字の融合」というのは、たとえば、次のような作品です。



『数字でわかる会社法』(田中亘編著/有斐閣/2200円)



『不正会計―早期発見の視点と実務対応』(宇澤亜弓著/清文社/4000円)



『不正リスクへの対応実務―予防から発覚後の対処法まで』(新日本有限責任監査法人/中央経済社/3400円)



『弁護士先生!!顧問会社の本当の姿を知ってます?』(宮田敏夫著/清文社/2000円)



『ファイナンシャルビジネス法務入門これからの法律屋は決算書が読めないと仕事になりません』(河村寛治著/レクシスネクシス・ジャパン/3200円)



●「ソク弁」必読の実用書とは?


――この数年でいうと、法律本の世界のトレンドはどんな傾向でしょうか。



マニュアルのような実用的な本が増えたことですよね。さっと読んで、すぐに実務に活かせるような本。弁護士事務所に所属していても、これを読めば、他の先生たちにすぐついていけるような本です。



いくつかご紹介しましょう。



『実践 訴訟戦術―弁護士はみんな悩んでいる』(東京弁護士会春秋会/民事法研究会/2300円)



これは、発売から1年が経っても、いまだに平積みでよく売れています。ページをめくれば、すぐに仕事に活かせる本だとわかるかと思います。



『訴訟の心得 円滑な進行のために』(中村直人著/中央経済社/2200円)



こちらは、弁護士の中村直人先生がお書きになった作品です。「あの有名弁護士がこんなにわかりやすく!」と驚くくらい、ていねいに解説されています。



そのほか、次の本もよく出ていますね。



『有利な心証を勝ち取る民事訴訟遂行』(北浜法律事務所・外国法共同事業/清文社/2200円)



『弁護士業務の勘所〜弁護士という仕事をもっと楽しむために〜』(宮澤里美著/第一法規株式会社/2500円)



『若手弁護士のための 民事裁判実務の留意点』(圓道至剛著/新日本法規/4200円)



――実用的な本が売れている背景には、何があるのでしょうか?



弁護士の世界にはいま、「イソ弁」「ノキ弁」「ソク弁」という言葉があります。以前は、司法修習を終えると、「イソ弁」(居候弁護士)として先輩弁護士の事務所に入り、その後、独立していきました。



それに対して、「ノキ弁」というのは、事務所に所属しているものの、実際は「軒先」を借りているだけで自分で営業をしている弁護士さんのことです。



それが今は、司法修習を終えてすぐに独立する先生たちも増えています。軒先も借りられない彼らのことを、即独立する弁護士ということで「ソク弁」と言うのですが、これはすぐに独立せざるを得ない厳しい時代ということでもあります。



昔は、「イソ弁」として先輩弁護士と一緒に働くことで、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)があったり、その背中を見ながら学んでいたのだと思います。それが今は、「イソ弁」であっても、ゆっくりと教育を受けるような余裕がなくなり、書籍から吸収しようとされているのかもしれませんね。



※弁護士会館「名物書店長」インタビュー(下)


(弁護士ドットコムニュース)



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