ハイリスク「商品先物取引」規制緩和へ――弁護士が懸念する「消費者被害」の再燃

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2015年02月19日 10:41  弁護士ドットコム

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ハイリスク・ハイリターンな取引の代表である「商品先物取引」の勧誘規制が、緩和されることになった。


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穀物や貴金属などの将来価格を予想して取引する「商品先物取引」は、投機的な要素が大きいため、勧誘を望まない顧客への電話・訪問勧誘が原則的に禁止されている。この規制の「例外」がこのほど、経産省・農水省の関連省令の改正によって拡大することになった。



今回の省令改正により、業者は(1)ハイリスク取引の経験者や(2)年収800万円以上もしくは金融資産2000万円以上などの条件を満たす65歳未満の人を、一定の条件下で電話・訪問勧誘できるようになる。改正は1月23日付けで、施行日は6月1日だ。



今回のルール変更は、消費者保護の観点からみて、問題ないものなのだろうか。消費者問題にくわしい正木健司弁護士に聞いた。



●消費者保護策が「骨抜きになった」


「勧誘を要請していない顧客に対して、電話・訪問勧誘を行うことを『不招請勧誘』といいます。今回の規制緩和は、これを骨抜きにするもので、非常にインパクトが大きいといえます。



不招請勧誘の禁止は、『抜本的な消費者保護策』として、2011年1月施行の商品先物取引法で定められたルールです。



このルールが定められたことで、商品先物取引による消費者被害は大幅に減少し、先物業界も淘汰・再編を余儀なくされました」



この規制によって、消費者被害がやっと減ったというわけだ。



●「消費者被害は防げない」


「ところが今回、わずか4年ほどしか経っていないにもかかわらず、突然、この『不招請勧誘禁止』を骨抜きにするような省令が定められたのです」



新しい省令では、どんな例外が定められたのだろうか。



「不招請勧誘禁止の例外となったのは、(1)ハイリスク取引の経験者と(2)65歳未満で一定の年収もしくは資産を有し、理解度テストに合格した顧客です。



これは実質的に、不招請勧誘の『解禁』といえます。国会で定めた法律が禁止していることを、省令で実質的に解禁するのは問題があります。省令で定められることの限界を超えていると考えます」



今回の省令では、対象者が、年収800万円以上か、金融資産2000万円以上の人に限定されている。それでは、絞り込みが足りないということだろうか?



「年収・資産による絞り込みが、消費者被害を防ぐために実効性のあるものとは、到底考えられません。悪質な業者は、顧客を誘導して、事実と異なる過大な申告をさせていることが、過去の裁判例でも明らかです」



●被害の再燃・拡大に懸念


「そもそも、不招請勧誘禁止の導入後も、法規制の隙間をぬうような形で、金の現物取引やスマートCX(損失限定取引)の勧誘などによる消費者被害が、少なからず発生しています。



今回の勧誘規制緩和は、消費者保護の面で、非常に重大な問題を有しています。今後、先物取引被害が再燃し、拡大しないか、細心の注意を払っていく必要があります」



正木弁護士は、このように警鐘を鳴らしていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
正木 健司(まさき・けんじ)弁護士
先物取引、証券取引、デリバティブ取引などの投資被害事件、金融商品取引訴訟を多数取り扱う。名古屋先物証券問題研究会事務局長。先物取引被害全国研究会幹事。全国証券問題研究会幹事。愛知大学法科大学院非常勤講師(消費者法)。中京大学法科大学院非常勤講師(消費者法)。愛知県弁護士会消費者委員会委員。K&A投資被害弁護団事務局長。
事務所名:名城法律事務所
事務所URL:http://www.meijo-law.jp/



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