もはや日本人の2人に1人が罹患している“がん”を、そのまま生活習慣病としてしまうのはそろそろ違和感がある。生活習慣に気をつけていても、なるときはなってしまうのだ。それだけに、がんは重要な研究課題で、日本のみならず各国で治療法が研究されている。
今回は、イギリス・マンチェスター大学の研究チームが発表した、“グラフェン”を活用した新しいがん治療の方法を紹介する。
炭素原子1つ分の厚みのユニークな素材
グラフェンは近年注目の新素材だ。2004年に発見されて、発見した研究者は2010年には早くもノーベル賞を受賞した。グラフェンというのは、炭素原子1個分だけの厚みを持ったシートで、ユニークな特性をいろいろ持っている。なお、このグラフェンが筒状になるとカーボン・ナノチューブと呼ばれる。
同研究チームが発表したのは、このグラフェンを酸化した“酸化グラフェン”という物質が、がんの幹細胞に狙いを定めて作用させることができるというものだ。
同大学のがん科学研究機関のLisanti教授はいう。
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がん幹細胞は、様々な種類の腫瘍細胞を生み出す力を持っています。そのがん幹細胞が、がんによる死因の90%を占める“転移”を引き起こすものです。
また、がん幹細胞は治療後の再発においても主な原因となっています。というのは、既存の放射線治療や化学治療は、大きくなったがん細胞を殺すことができるだけであり、がん幹細胞には一般的に効かないのです。
グラフェンは抗がん剤として働く
また、Vijayaraghavan博士は下記のようにつけ加える。
水の中で安定する酸化グラフェンは、バイオ医療において高い可能性を持っています。細胞の中や表面に難なくとりついて、薬剤の標的になるように変えてしまう性質があるのです。
また、このケースでは酸化グラフェンそのものが効果的な抗がん剤としての効果も見せています。がん幹細胞は、腫瘍表面で小さな細胞の集団を形成するように分化しますが、酸化グラフェンのフレークはその作用を防ぎ、がんではない幹細胞へと分化させるように促す作用があるのです。
研究チームは様々なタイプの酸化グラフェンを用意し、胸、膵臓、肺、脳、卵巣、前立腺と、異なる6種類のがんに試し、すべてにおいて細胞表面で起こる作用をブロックし、効果を発揮できそうだという結果を得た。一方で、健康な細胞に対しての害はなかったそうだ。
今後もまだ臨床前試験、臨床試験ともに必要ではあるが、これを既存の治療法とあわせて使えば、がんの縮小、転移の予防、そして再発の防止に役立てることができる可能性があるという。
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当サイトがスタートして1年もたっていないが、すでに何度もグラフェンやがんの新しい治療法の記事を書いている。おおむね研究段階であり、実用化には至っていないものばかりだ。今回紹介したものもまた実現するかどうかはわからない研究である。しかし、こういった研究のなかから、将来の医療やテクノロジーを大きく変えるイノベーションが出てくるのだろう。
いずれにしても、現在はナノ技術と、それを使ってピンポイントで狙った部位(細胞)に薬剤を働かせる研究が盛んであることはまちがいないようだ。