【今どき絵本作家レコメンズ】かがくいひろしさん ――遅咲きと急逝の間に散りばめられた珠玉の作品

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2015年03月02日 10:02  MAMApicks

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絵本業界は、ロングセラーばかりが売れる世界。書店の絵本コーナーには、20年も30年も前に出版された絵本がずらりと平積みされていたりする。

「私も子どもの頃、この絵本読んだなぁ」なんて懐かしい気持ちになって、昔ながらの絵本を手に取るのは無理もない。同じ絵本が世代を超えて愛されるというのもすばらしい。でも、でも……「これぞ次世代の名作!」と思えるようなすばらしい新作絵本が、息の長い名作の陰で埋もれてしまうのは、ひじょうにもったいない。

そんなわけで、100人以上の絵本作家を取材した経験を持つ筆者が、独断と偏見からいちおし絵本作家にフォーカスする、題して「今どき絵本作家レコメンズ」。記念すべき第1回のレコメンド作家は、かがくいひろしさん。2005年、50歳で絵本作家デビューした遅咲きの絵本作家だ。


『だるまさんが』

作・かがくいひろし(ブロンズ新社)代表作『だるまさんが』(ブロンズ新社)は、2008年の初版からわずか6年で100万部を売り上げたベストセラー。だるまさんのキュートな表情とコミカルな動き、楽しい擬音語やシンプルな繰り返しの展開が特徴のこの絵本には、グズる赤ちゃんをも笑わせてしまうおもしろさがある。筆者の息子も0歳9ヵ月でこの絵本に大ウケ、ケタケタと笑い転げた。絵本であそこまで笑ったのは初めてのことだった。

独特の世界観とユニークなキャラクターで、読む人を笑いの渦に巻き込む、かがくいひろしさんの絵本。今回はなかでもおすすめの3作品を紹介する。

■紅白まんじゅうが主人公『おしくら・まんじゅう』

『おしくら・まんじゅう』

作・かがくいひろし(ブロンズ新社)
主人公は、やんちゃな紅白まんじゅう。「そーれ」の合図で、おしくらまんじゅうのはじまり、はじまり〜。さて、おされたみんなの反応やいかに!?


こんにゃくや納豆も登場するが、それらを知らない赤ちゃんでも楽しめる。もちろん、こんにゃくや納豆がわかるようになってからなら、より一層楽しいはず。赤ちゃん絵本と分類されるのかもしれないが、意外と長く楽しめるので、兄弟そろっての読み聞かせにもおすすめしたい。

にっこり笑顔で「ぷるるる〜ん」とはねるこんにゃくや、ぐにゅぐにゅおされて不安そうな納豆など、どれも表情が豊かで躍動感たっぷり。かがくいワールド炸裂の、楽しい一冊だ。

■無機質なものたちの姿が愛らしい『もくもくやかん』

『もくもくやかん』

作・かがくいひろし(講談社)
かんかん照りのある日、やかん、ポット、じょうろ、急須が大集合。準備体操を終えると、大きく息を吸って……さて、一体何が起きるのか!?

無機質なはずのやかんも、かがくいひろしさんの手にかかればこの通り、愛らしく元気なやかんに様変わり。まだ読んだことのない方のためにネタバレは避けるが、前半で力を合わせてがんばった成果が後半で描かれている。それが何とも心地よく、「やったー!」という気分になるのだ。

ちゃぽりん、ぷしゅー、しゅんしゅんしゅん……などの擬音語も楽しい。一仕事終えたやかんたちがホッと一息、お茶するシーンにも心が和む。


ちなみに筆者の息子は、カバー袖・プロフィールの上の、どぷんと水につかるやかんの絵が大好き。小さな一コマにも愛情が込められているのがよくわかる。うれしそうなやかんの表情に、筆者も癒されている。

■読者参加型絵本『まくらのせんにん そこのあなたの巻』

『まくらのせんにん そこのあなたの巻』

作・かがくいひろし(佼成出版社)
枕の姿の仙人様と、そのお供、敷布団のしきさんと掛布団のかけさんの珍道中を描いた『まくらのせんにん さんぽみちの巻』の続編。

ぞうさん、きりんさん、うさぎさん……動物たちが、次々と謎の穴にはまっていく。さらには仙人様まで穴にはまってしまって、さあ大変!「こうなったら、『そこのあなた』にたのむしかないな」

表紙には、こちらに向かって指をさす仙人様の姿が描かれている。そう、「そこのあなた」の「あなた」とは、絵本を読んでいる「あなた」のことなのだ。さて、あなたは穴にはまった仙人様たちを助けることができるのか!?でも、一体どうやって!?


読む人を自然な流れで絵本の世界に引きずり込む、読者参加型絵本。筆者もこの手の絵本はこれが初めてだったので、予想外の展開に驚かされた。ぜひ絵本を手に取って、そのおもしろさを体感してほしい。

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筆者がかがくいひろしさんにインタビューしたのは2008年、『だるまさんが』のヒットを受けて、次々と新作を発表していた時期だ。しかし2009年9月、アイデアノートにいくつもの絵本の“種”を残して、54歳で急逝。2010年1月に出版された『まくらのせんにん そこのあなたの巻』が遺作となった。

作家活動はわずか4年だが、その間に今回紹介した作品を含め、15の愛すべき作品を残した。かがくいひろしさんの絵本は、これからも多くの親子に読み継がれていくことだろう。

加治佐 志津
ミキハウスで販売職、大手新聞社系編集部で新聞その他紙媒体の企画・編集、サイバーエージェントでコンテンツディレクター等を経て、2009年よりフリーランスに。絵本と子育てをテーマに取材・執筆を続ける。これまでにインタビューした絵本作家は100人超。家族は漫画家の夫と2013年生まれの息子。趣味の書道は初等科師範。

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