オートバイに乗るようになってからしばらくの間、自転車に乗らない時期があった。久しぶりに自転車に乗ったときに思ったことは「乗り心地が悪いな」ということだった。考えてみれば当たり前で、普通の自転車にはサスペンションはついていない。
そこから想像すると、車椅子も乗り心地はあまりよくないだろう。サスペンションがついていないからだ。段差はもちろん、路面の凹凸からも細かい振動が伝わってくるだろう。
しかし、それを救済するホイールが登場した。しかも、かなり斬新な構造で。
スプリングを使ってハブをフローティング
クラウドファンディングのサイト『Kickstarter』で資金募集中の『Loopwheels』というものだ。なんとホイールのリム(外周)とハブ(中央)の間にスプリングが入っているのだ。そのスプリングが衝撃を吸収してくれるというものである。リムが変形するわけではなく、ハブに対してリム全体が移動するのだ。
そのユニークな方式のため、通常の自転車のフロントフォークやスイングアームのように特定の方向の衝撃しか吸収しない、ということはない。外周上であればどの方向からの動きも吸収する。
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この機構によって、車椅子のユーザーは荒れた路面も悪路も、草の上も移動することができるようになる。大きい衝撃だけでなく細かい振動も吸収してくれるので、普段の街中での使用も快適になる。また、スプリングはトルクを増幅させてくれる働きがあるので、縁石を越えるのも楽になるという。
ホイールは頑丈で、メンテナンスもほとんど必要ない。また、クイックリリース機構と複数用意されたサイズバリエーションによって、様々な車椅子に簡単に取り付けることができる。
自転車用が先行発売されている
実はこのホイール、2年前に折り畳み式自転車用20インチホイールとして『Kickstarter』で資金を集め、発売にこぎつけたものの車椅子版だ。自転車用のプロトタイプを製作し、『Kickstarter』で発表する前から車椅子用を出してほしいという要望があり、開発を始めたという。
車椅子用のホイールは24インチと25インチがある。スプリングはカーボン製でサスペンションのストロークは70mm。タイヤなしの状態で1.75kgの重量だという。
『Loopwheels』はロンドンのデザイン美術館が主催する『Designs of the Year 2015』の輸送部門において、6つの候補作品のひとつに入っている。
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このホイールを使えば、車椅子ユーザーの行動範囲が大きく広がることは間違いない。また、普段の使用でも乗り心地がよくなりそうだ。
筆者は以前スポーツ用車椅子を取材したことがあり、「もし足が不自由になっても十分スポーツができるんだ」と認識した経験がある。このホイールの登場は、さらに「足が不自由になってもアウトドアに行ける」ことを意味する。
ちょっと気になるのは、現時点であまり資金の集まりがよくないことだ。あくまでもこのホイールが必要なのは車椅子のひとなので、希望者の絶対数が少ないせいではないだろうか。もしかしたら、こういった障害者向けの製品はクラウドファンディング向きではないのかもしれない。しかし、ぜひ実現してほしいアイテムだ。