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“ドライアイ”はコンピューターを凝視することが多い現代人にとって深刻な病気だ。直接的には涙の量が足りなくなるために起こる症状なので、涙の量を増やしてやればおおむね解決すると思っていい。でもどうやって?
体内に小さなワイヤレスデバイスを埋め込むことで、それを可能にするという対処法がいま研究されている。アメリカのスタンフォード・バイオデザインのフェローシップ(実践講座のようなもの)出身の研究者が開発中だ。
微弱電流パルスが涙を促進する
Ackermann博士と彼が設立した会社では、涙腺に微弱なパルス電流を出すことで涙の分泌をうながす2種類のデバイスの開発を進めている。ひとつは鼻腔の粘膜に埋め込むもの。もうひとつは眉毛のあたりの皮膚の下に埋め込むものだ。いずれもワイヤレスコントローラーによって涙の分泌頻度を調整できる。
この研究のスタートとなったスタンフォード・バイオデザインのプログラムがなかなかユニークだ。ここでは毎年、医学や工学、ビジネスなどの学歴、実績を持つ者12名のみを受け入れる。そして、彼らは医療の分野で新しいニーズを満たすような技術や装置の開発に取り組むのだ。
Ackermann博士も、ケース・ウエスタン大学でバイオ医療技術の博士号を取得し、医療器具の会社に勤めた後、このプログラムに参加した。彼はまず外科医や医療工学の大学院生、バイオ工学の博士と一緒にチームを組み、眼科医療の分野におけるニーズを探った。そこでドライアイが大きな問題になっていることを知った。
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目は本来、まばたきするたびに、脂分や水分、タンパク質、粘液を含む涙で潤滑される。それが不足するのがドライアイだが、原因は様々で涙腺の障害だったり、なにかの薬の副作用だったり、妊娠や更年期症状によるホルモンの変化だったり、免疫機能の異常と関連していたりする。
対処としては、目薬と抗生物質の乳液がポピュラーだが、目薬は冷蔵しておかなくてはいけないため、必要なときにすぐに使えないし、涙の成分すべてを補えるわけではない。また、抗生物質の乳液は目の炎症への対処療法であって、根本的な解決にはならない。
そこでドライアイの治療に大きなニーズがあると考えたAckermann博士らのチームは、新たな治療法を検討した。そして、もともと神経調節の知識があったAckermann博士は、涙腺の神経を刺激することで涙を分泌させる方法を思いついた。それは、これまでの治療法と根本的に異なるアプローチだったが、やってみる価値がありそうだった。
しかし、最初の装置のアイデアは臨床医に一蹴される。首に装着するペースメーカーのような大きなものだったからだ。そしてふたたび眼科医のところに持って行った試作品は、実現すれば大きな注射器で眉毛の下に注射することも可能になるんじゃないかと、その眼科医が思うほど小さいものになっていた。
次々と出資を獲得して事業を推進
その年度の後半には、スタートアップ・コンペティションで3万2,000ドルの出資を獲得することにも成功し、Ackermann博士は翌年もスタンフォード・バイオデザインのプログラムに参加することができた。そして、その2年目の期間中にOculeveという会社を設立し、涙を分泌させるためのデバイスを市場向けに開発する決意をした。
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その会社はシリコンバレーのベンチャー・キャピタル(投資会社)の目にとまり、10万ドルの資金を獲得し、動物実験用のプロトタイプを製作することが可能になった。その後、彼らはさらに投資家から7,600万ドルの出資を約束され、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコで臨床試験を開始することが可能になった。
そして2014年には、追加で1億6,600万ドルの資金を得て、ヨーロッパやカナダで認証を得るためのコストと時間のかかる作業が可能になったという。まさに、大学の研究機関から大きなプロジェクトへと成長したサクセスストーリーの途中なのだ。
実際のところ、日本人の感覚だったら変なデバイスを埋め込むよりも「こまめに休息をとろう」という精神論のほうが馴染みやすい気がする。欧米ではどうなのだろうか? 個人的には、本当にこんなデバイスが成功するかどうかには大いに疑問が残る。
しかし、新しいアイデアを形にして起業をしようという強い意識、可能性を感じたらそこに投資しようという強い意識の点で、日本とは大きく違いを感じさせるエピソードだ。ビジネスも研究も国際的になってきている現在、日本人の研究者やエンジニア、投資家は、以前と考え方を変えたほうがいいのかもしれない。
もっともこうして“未知のモノ”に対して大きな額が動くようになった場合、のちに大きな欠陥が発見されても隠蔽されたり、ゴリ押しされたりするリスクは増すかもしれない。周囲からの影響力が大くなりすぎるからだ。いずれにしろ、日本人から見ると示唆に富むストーリーだ。
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