帰ってきたバーチャル・リアリティーの新境地 - 瀧口範子 @シリコンバレーJournal

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2015年03月12日 18:21  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

 最近、バーチャル・リアリティー(VR)の技術が再び注目を集めている。VRとは、コンピュータの中で展開される空間のこと。バーチャルな城を舞台に闘うコンピュータ・ゲームとか、バーチャルな教室で行われるセミナー(ウェビナー)などのVRを体験された方もいるかと思う。要は、本物のように精巧に作られたコンピュータ・グラフィックス空間で、臨場感のある体験をしたり用を済ませられるようにしたものだ。


 それが改めて注目されるようになったのは、VRを体験するための特製の機器が開発されたため。たとえば、フェイスブックに買収されたオキュラス・リフトという会社の機器は、見たところゴーグルのようなかたちをしている。これをかけて両目をすっぽり覆うと、前方のふたつの画面が脳の中で合成され、風景などがひとつの立体空間として表示されるようになる。


 驚くべきは、そのイマーシブな(没入感のある)体験だ。これまでにVRをコンピュータ・スクリーンで見たことがあっても、ゴーグルをかけて見える空間のこの生々しさはそれとは比べものにならない。本当にそこに居るかのように感じられるのだ。


 イマーシブさをさらに強めるのは、自分の首を動かす時。横を向いたり上を向いたりすると、画面も連動する。バーチャルに作られた画像だというのに、まるで自分がその同じ空間にいて、いろいろ視点を変えているように体験できる。


 それでは、このVRは一般のわれわれにどんな風に役立ってくれるのだろうか。VR用のゴーグルはオキュラス・リフトだけでなく、サムソンやソニーも開発している。グーグルも簡易型のものを開発して、ウェブ上で型紙をダウンロードできるようにしている。VR用のゴーグルをかけている様は、他人から見ると少々ギーク(=オタク)っぽいのは確か。だが、その奇妙さを超えて、これからVRが広まるだろうという予感がする。


 まずは、ゲーム。すでにコンピュータ・ゲームの中には空間が三次元に見えるものがあるのだが、これがVRになると迫力が違う。平らなコンピュータ・スクリーンではなく、目をすっぽり覆われてその中に居る感じがぐっと高まり、城の風景も野原の木々も本当にリアルなものとして感じられるだろう。


 エンターテインメントでは、すでにVRを用いた映画製作が進んでいるようだ。こちらも遠くの平らなスクリーンを観るのではなく、主人公に触れそうなくらい近いところから、まるで参加するように映画作品が味わえるようになる。


 ソーシャル・ネットワークでの利用も予想できる。そもそもフェイスブックがここに乗り出したのも、それが理由だろう。フェイスブックでつながっている人々が、バーチャル空間に集って交流する。タイムラインでやりとりしている以上の直接的な雰囲気が感じられるだろう。


 ビジネスでは、不動産が面白い。一度体験したことがあるのだが、売り出し中のアパートをバーチャルに見学できたりする。視線を移して部屋の中を見回したり、外からアパートを見上げたりできる。周辺の環境も手に取るようにわかるのは、現在のウェブでよくあるバーチャル・ツアーとは大違いだ。


 バーチャル・ツアーと言えば、旅行業にも役立つ。今度旅行したい先、泊まりたいホテルなどをVRでチェックするというのも手だろう。


 その他にも医療、製造、教育など、使えそうな場面は無数に出てくる。だが、用途以上に興味深いのは、VRというテクノロジーの復活劇である。


 実は、VRはもう20年近く前に大きな注目を集めたことがあった。先端的なテクノロジーを好む一部の人々が実際にVR空間を作ってデモしているのをいくつも見たことがある。


 しかし、当時はVRの真価を体験することはできなかった。コンピュータ処理能力の限界によって、画面は雑でスムーズに動かない。またVR用のゴーグルもなかったので、VR空間の迫力があまり感じられなかった。いったい何のために必要なのか。まだバーチャルな交流が芽生えていなかった時期でもあり、その用途がよく見えなかったのだ。


 しかし、今こうしてVRが本格的に広まろうとしていることには感慨深いものがある。テクノロジーは早過ぎても受容されない。けれども、環境が整えば復活して生まれ変わることもある。そして、かなり早い時期にその可能性を信じた人々は、やっぱり凄いのだ。




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