先人の知恵「摘み菜」に学ぶ自然との付き合い方

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2015年03月23日 17:30  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

ツクシやヨモギ、タンポポ……。色とりどりの草花の息吹が感じられると春の訪れを教えてくれる。この愛らしい野の草花は、実は私たちにとって食物であることを、今の若い世代はどれだけ知っているだろう。

先人の食の知恵は、自然と人間との付き合い方の知恵でもある。野山や浜辺の菜をいただく『摘み菜』の心に触れてみよう。

古代の食文化を伝える伝道師

平谷けいこさんは、大阪在住の摘み菜研究家。『摘み菜』(商標登録)とは山や野、里、浜に生きる菜(花・草・木・海藻・実などすべて)の総称だ。平谷さんは、『食薬草の会』で学んだ後、85年から摘み菜の楽しさと知恵を次世代に伝えるために『摘み菜を伝える会』を設立、各地でセミナーやテレビ、新聞など様々なメディアで活動している。

画像提供/摘み菜を伝える会 撮影/京谷   寛

野草の料理というと、春の山菜で料理もちょっと地味目というイメージが固定的な気がするが、平谷さんの手にかかると、いわゆる雑草と思われているシロツメクサや、ペンペングサ(ナズナ)、レンゲソウ、タンポポ、紅葉した桜の葉まで、おいしく、カラフルでオシャレな逸品に変身してしまう。

『摘み菜』を知ってしまうと、その瞬間から“道端はごちそうの山”となり、物事の価値観を考えさせられる(実際には当然、排気ガスやゴミが溢れるような環境では摘むことはないので、注意すること)。

『摘み菜』が教えてくれる食の原点

『摘み菜』料理の魅力とは、なんだろう。もちろん『摘み菜』料理のおいしさや知識が広がるということもあるのだが、“食の原点とは何か”を改めて思い起こさせてくれるからではないだろうか。それは“命をいただく”ということだ。

例えば『摘み菜を伝える会』では、摘み菜をする際の約束事がある。

自分が食べられる分だけを摘むこと

今生きている菜の命を絶やしていただくのだから、自分が食べる分以上にとりすぎないこと。そして、できるだけ命を生かすために無駄なく活用すること、である。

『摘み菜』料理では花や実、葉や皮など食べられる部分は食べたり保存食にし、固い茎などの食べられない部分はお茶にしたり、干して入浴剤にしたりする。平谷さんや会のメンバーが創意工夫した活用法は数知れず、驚くほどの知恵の宝庫だ。

画像提供/摘み菜を伝える会 撮影/

ウニやあわびを獲る海女は、酸素ボンベをして漁をしない。また、昆布漁をする漁師たちも3時間しか作業しないと決めているという。それは乱獲をしないため。個人的な目の前の儲けより、人間の社会全体がどうしたら自然界から得る恩恵をできるだけ維持できるのか、という先人の切なる願いと知恵を受け継ぎ守っている。『摘み菜』の心にも、同じ自然尊重の精神が息づいている。

自然とのつながりを肌で感じる

生産地と離れた都会的な暮らしをしていると、お金さえ出せば簡単に食べ物が手に入り、食べ物が自然からの恩恵であることをついつい忘れがちになるものだが、野山や浜辺で『摘み菜』を楽しみながら、自然とのつながりを肌で感じることができる。

摘み菜を伝える会のセミナーでは、季節の摘み菜を摘み、料理で献立を制作。

日本人の食事情は、自給率が40%前後で低いといわれているが、そのいっぽうで毎年2,000万トンの食品廃棄物があり、肥満からくる生活習慣病患者も多い。

『摘み菜』の心を手本に、日本人の多くが自然を尊ぶ美しい暮らし方や分相応の食生活を思い起こし、一人一人の毎日が変われば、こうした社会問題にもなにかしらの改善につながるのではないだろうか。

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