糖尿病治療での医師・患者の意識ギャップ　前向きに治療継続するために必要なものとは？

患者は医師が思うよりも治療実践できていない

横浜市立大学大学院 医学研究科分子内分泌・糖尿病内科学 教授 寺内康夫先生

　糖尿病の治療の主な目的は、血糖値をコントロールし、合併症を防ぐこと。しかし初期段階では自覚症状がほとんどあらわれないため、治療の重要性が理解されにくい病気でもあります。

　塩野義製薬株式会社が、糖尿病患者3,580人と糖尿病患者を診察している医師298人に対して行った調査によると、多くの患者が治療で合併症を予防できると認識していたものの、自身の合併症リスクを軽く考えていることがわかりました。

　また、血糖値の治療目標値を「正確に知っている」、医師に指示された運動・食事管理を「実践している」と答えた患者は、医師が「正確に知っていると思う」、「実践できていると思う」と回答した数値より低く、患者は医師が期待しているよりも「自身の治療・リスク認識」や「治療実践」ができていない現状が明らかになりました。

合併症を自身のリスクと理解していない人が多い

　今回の調査の結果、84.6％の患者が、治療により合併症リスクを予防できると認識していた一方で、自身が合併症になることへの心配はそれほど高くありませんでした。また、医師の93.3％が、糖尿病の合併症リスクとして「脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくなる」ことを患者に説明していましたが、説明を受けたと答えた患者は49.1％と、医師が思っているほど合併症リスクが伝わっていませんでした。

　さらに、ほとんどの患者が治療継続の重要性を認識しながらも、医師に指示された運動・食事管理を実践している人は約3割にとどまる結果に。患者自身の目標血糖値についても、医師の62.1％が「正確に知っていると思う」と答えたのに対し、「正確に知っている」と答えた患者は48.0％でした。

　今回の調査を監修した寺内康夫先生（横浜市立大学大学院 医学研究科分子内分泌・糖尿病内科学 教授）は、「患者さんが治療に前向きに取り組むためには、患者・医師間での質の高いコミュニケーションが重要です。しかし、今回の調査では医師が期待するほど患者さんは診療以外の生活レベルでの治療実践や医師以外のサポートが十分でないとわかりました」と、コメント。

　「質の高いコミュニケーションのためには、患者さん側では、生活習慣の改善を含めて治療だと認識してもらうこと、医師まかせにするのではなく、みずから積極的に治療に参加する意識を持ってもらうことが重要です。医師側でも、治療目標の共有や、治療を実践するための具体的なサポート情報を提供するなど、患者の意識や行動を変容させるコミュニケーションが必要です」（寺内先生）

糖尿病治療の中心にいるのは患者自身

　塩野義製薬では、今回の調査結果をもとに、糖尿病や治療に関連した25の不安や心配ごとを集め、それらに対する答えをまとめた小冊子「不安・心配ごとQ&A 25」を作成。「病気編」「治療編」「まわりの人たち編」の3つのカテゴリーには、「体重管理が難しい、体重はそれほど重要？」「糖尿病になったら治らない？」といった病気に関する疑問から、「治療がうまくいかない私のことを先生はどう思っている？」「治療の不安や面倒さについて相談する相手はいません」といった、治療全体にかかわる疑問まで、医師にはなかなか聞きにくい質問も掲載されています。

小冊子「不安・心配ごとQ&A25」

　糖尿病治療では、いま、患者を中心に考え、それぞれにあった治療を行っていくという「ペイシェント・センタード・アプローチ」という考え方が注目されています。医師や看護師、栄養士などの医療スタッフでチームを作り、治療に取り組みますが、患者もそのチームの一員として、治療法について担当医と話し合いながら自身の治療を進めていきます。

　糖尿病は、一度かかってしまうと長くつきあっていかなくてはならない病気です。前向きに治療を継続するためにも、治療の中心にいる患者自身が、積極的に治療に関わっていく意識が求められています。（QLife編集部）

関連リンク

• 塩野義製薬株式会社　プレスリリース

⇒元の記事を読む