燃料電池自動車が次世代の乗り物であるかのような報道も少なくないが、じっさいのところはけっこうきわどい。というのは、現在のところ水素燃料の製造はおもに天然ガスから分離する方法であり、再生可能エネルギーではないし、自動車そのものからは温室効果ガスを排出しないものの、水素燃料の製造工程で多量の温室効果ガスを排出する。
水を電気分解して水素を発生させる方法もあるが、そうすると電力を直接電気自動車に使用するより効率が悪い。
けっきょくのところ、水素はエネルギーの保存性、運搬性で優れているため、余剰電力の利用という面では優れているものの、製造工程においてはあまりアドバンテージはない。しかし、低コストかつサステイナブルな方法で水素燃料が製造できるとしたら話は別だ。そんな研究をヴァージニア工科大学のPercival Zhang教授らの研究チームが発表した。
トウモロコシの廃棄物を利用する
使用するのはトウモロコシの茎や穂軸、皮といった廃棄物だ。つまりバイオマスである。日本ではそれほどでもないかもしれないが、アメリカでは大量に出るようだ。
この研究は、もっともシンプルな五炭糖のひとつであるキシロースから水素を作り出す理論にもとづいている。そしてふたつの点で新しいという。
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ひとつは、これまでの水素燃料生成が、おもに加工された糖分を使っていたのに対し、この方法では茎や皮といった、そのままのバイオ廃棄物を使うことができる点だ。これによって、原料の調達コストを下げることができ、農産物の加工工場のすぐ近くに、容易に水素燃料製造工場を設置できるようになる。
もうひとつの新しい点は、酵素がバイオマスを分解する工程において、複雑な数式のみならず遺伝学的なアルゴリズムを活用することで、グルコースとキシロースを同時に分解することができるようにしたことだ。従来のバイオ技術では、通常このふたつの反応は順番にしか行うことができなかった。それを同時に反応させることができるようにしたことで、時間とコストの削減が可能になる。
巨大な設備は不要
また、水素燃料の普及のための大きなハードルは、従来の方法では天然ガスから水素を分離する工場がどうしても大規模になるため、多額の資本が必要になることだ。今回の研究による製造方法では、水素製造の設備を、ガソリンスタンドくらいの規模にまでコンパクトにすることを可能にした。製造スピードも十分に速いものになっているという。
また生成された水素は、水溶性の反応物と酵素から容易に分離することができ、燃料電池自動車に使えるレベルの高純度な水素が得られる。
この論文の筆頭著者であるJoe Rollin氏は、
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この素晴らしい技術は、化石燃料を使う自動車にとって代わって、燃料電池自動車を世界に普及させることができる力を秘めていると、私たちは信じています
という。
研究チームは、この水素製造の設備をデモンストレーションできる規模にまで拡大するための資金をすでに獲得し、次のステップに進もうとしている。
冒頭に書いたように、水素は地球上にふんだんにある元素だが、利用はそう簡単ではない。とはいえ、日本はこの技術に注力してく方針のようだ。そのためには、まだいくつものハードルを越えなくてはならない。
バイオマスは水素燃料の原料として目新しいものではないので、けっきょくのところ問題なのは水素燃料を活用するための効率やコストだ。今回紹介したように、さまざまな技術が進化していけば、より効率よく、サステイナブルなエネルギー源として水素を活用できるようになっていくかもしれない。この研究の実用化にも期待したい。
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