液体を空中浮遊させる?JAXAがホウ素の構造解明につかった「静電浮遊法」ってなに

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2015年04月23日 06:30  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

地球外生命体の存在、生物の遺伝子情報など、人間が知らないことはまだまだいろいろあるが、これもまたそのひとつだ。“液体を高温にするとどうなるのか?”というテーマである。高温というのは1,000度、2,000度を越えるようなレベルの話だ。その温度になると鉄も液体である。

容器が融けるから実験できない

JAXA宇宙科学研究所のウェブサイトによれば、シリコン(融点1,412度)、鉄(融点1,535度)のような融点の高い物質は、工業的に広く使われているにもかかわらず、液体の状態での基本的な性質が意外とわかっていないという。なぜか? その温度の液体を入れて観察できるような容器がないのだ。

温度が容器の融点を超えると融けてしまうし、液体と容器が化学反応を起こすこともある。1,000度を越えると、容器の選択が難しくなり、2,000度を越えると容器として使える材料がなくなるという。

しかし、JAXA宇宙科学研究所と東京大学の研究グループが、融点が2,077度であるホウ素を溶融させ、その状態の電子構造を測定することに世界ではじめて成功したと発表した。いったいどうやったのか?

空中に浮遊させたのだ。まるでドラゴンボールの元気玉のように。

液体を静電気で浮遊させる

これはNASAとJAXAが開発した“静電浮遊法”という技術を使っている。本来は国際宇宙ステーションで使うことを目指した実験技術だ。帯電した試料に静電場をかけ、重力と釣り合わせることによって(※地上で行う場合)、試料を2枚の電極間の任意の位置に浮遊させる手法だ。そして、浮遊試料に高出力レーザーを照射することで、3,000度を超える高温も実現できる。

この静電浮遊法を使えば、容器を用いる必要がなく、高温の液体が物質と反応するおそれがない。そのおかげで2,000度を超えるホウ素の液体を保持することが可能になる。

元素は大きく分けると金属と非金属(半導体、絶縁体)に分類される。その中で、周期律表を見ると、ホウ素やケイ素(シリコン)などの元素は金属と非金属の境界に位置することがわかる。こうした元素は固体と液体で大きく性質が異なることが知られていて、シリコン、炭素、ゲルマニウムなどは固体では典型的な半導体だが、融けると金属になる。

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これまではホウ素も同様に融けると金属になると理論的に考えられていたという。しかしこの実験の結果、ホウ素融体は金属ではなく半導体的性質を強く持つことが明らかになった。今回の研究は、米国物理学会誌『Physical Review Letters』に掲載され、オンライン版でも公開されるという。

今回使われた静電浮遊法は、2,000度以上の超高温状態を空中に実現できる画期的な手法だ。現在JAXAによって国際宇宙ステーション『きぼう」』日本実験棟へ搭載する超小型静電浮遊溶解装置の開発が進められていて、2015年中には『きぼう』に輸送されて、地上では困難な高温融体の実験が行われる予定だという。

ごく身近な物質でさえ、超高温、超高圧下での性質は意外と知られていないということがあるようだ。こういった物質の性質を詳しく理解して利用できるようになると、新たな材料開発につなげることも可能だと期待される。

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