マンガの常識を変えた天才、そして現在のマンガ表現の基礎を作り上げた巨人、手塚治虫がこの世を去って四半世紀。マンガ表現は日に日に進化を遂げ、ともすれば、いずれは“手塚治虫を知らない世代”が現れるかもしれないのです。いかんっ、なんとしてもそんな状況を食い止めねば!!
そこで今回は、手塚治虫のことをよく知らない若い世代へ向けて、彼が残した言葉をいくつか紹介します。彼の偉大さ、すごさ、そして意外な一面が分かりますよ。
【最新ランキング】人生最後の日、最後の瞬間に観ていたいアニメ作品 TOP20!■無限に溢れる、好奇心と創作意欲
手塚治虫は生涯で15万ページのマンガ、60タイトルのアニメを作りました。多いときには連載7本を同時に抱え、
「すみません、15分だけ寝かせてください」
と休む間もなく描き続け……。しかし、彼はこう言い張るのです。
「アイデアだけは、バーゲンセールしてもいいくらいあるんだ」
病床に臥したときでさえ、
「頼むから仕事をさせてくれ」
と懇願した手塚治虫。『鉄腕アトム』『リボンの騎士』『ブラック・ジャック』『三つ目がとおる』『ジャングル大帝』…こんなにたくさんの代表作とヒット作を持つ漫画家、ほかに見当たりませんよね?
そんな稀代のヒットメーカーでありながら、決して偉ぶらない。驕らない。
「原稿料は絶対にあげないでください。仕事がこなくなります」
とスタッフに言いつけ、
「僕だって、描くんだったら一位になりたいんです」
なんて、新人漫画家みたいなことまで言っちゃう。
そこにはほかの漫画家へのライバル意識ももちろんありましたが、単純にいいものを世に届けたい、「今」という時代に合ったものを描きたいという、“ピュアな創作意欲”があったのです。
そう、手塚治虫は好奇心の塊。そして、類い稀な実行力の持ち主でした。
「いい映画をたくさん観なさい。いい小説をたくさん読みなさい。いい音楽をたくさん聴きなさい」
と周囲にアドバイスしたように、さまざまなものを貪欲に吸収し、マンガという世界で昇華させていったのです。
■世間のイメージとのギャップも!?『ブラック・ジャック創作秘話』の手塚治虫
そんな手塚治虫の想いは、どうやらきちんと次の世代へ受け継がれているようです。
2009年から2014年にかけて連載され、2012年の「このマンガがすごい!」オトコ編1位を受賞した『ブラック・ジャック創作秘話 〜手塚治虫の仕事場から〜』(作・宮崎克/漫画・吉本浩二)。これは、関係者の証言から“肉体労働者”としての手塚治虫を浮き彫りにした伝記マンガです。
「このコマ30秒で描いてください!!」
「ものを創る人がパーフェクトを目指さなくてどうするんですか!」
など、そこには手塚治虫の熱くて激烈な言葉がずらり。
その一方で、
「みなさん私のベレー帽を捜してください!! あれがないと描けないんです!!」
と言って周囲を慌てさせたり、
「スイカがないと描けません!」
という子どものような駄々をこねるお茶目な一面も(スイカ以外にも、チョコ、スリッパ、ハム、メロンなどのパターンあり)。等身大の手塚治虫が生き生きと描かれています。
アニメ制作の進行が遅れに遅れているとき、原稿執筆でボロボロになった手塚がピンチヒッターとして現れ、「これは手塚!! 私が描きましょう!!」とほとんどの仕事をさらっていくバイタリティーは驚愕ものですが、さらにすごいのがこの言葉??。
「ちゃんとした絵で中国の人にも楽しんでもらわないと!!」
これは、無許可で発行された中国版の『鉄腕アトム』を目にしたときのひと言。絵は引き伸ばされ、アトムがまったくの別物になっているのを目の当たりにし、手塚はすべてを描き直すというのです! しかも、原稿料も印税もなしの完全ボランティアで!!
彼にとっては、自分が産み出した作品は我が子同然。どんなに手間をかけても惜しくない存在なのですね。
これらの名言から彼のすごさに触れた後は、実際に手塚作品を読んでみてください。パーフェクトな世界観に、きっと打ちのめされるはずです。
★参考文献:
・手塚治虫 壁を超える言葉 - 手塚治虫 / 松谷孝征 -
・ブラック・ジャック創作秘話 〜手塚治虫の仕事場から〜 - 吉本浩二 / 宮崎克 -
★記事:ぶくまる編集部