「トヨタ女性役員」麻薬密輸容疑事件――日本の法律を知らなかった場合はどうなる?

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2015年06月30日 11:51  弁護士ドットコム

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トヨタ自動車のジュリー・ハンプ常務役員(55)が麻薬取締法違反(輸入)の容疑で警視庁に逮捕されて約10日がたった。ハンプ常務役員が、輸入した薬物について、麻薬の認識を持っていたかどうかが捜査の焦点になっている。


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報道によると、ハンプ容疑者には、麻薬成分の「オキシコドン」を含む錠剤57錠をアメリカから密輸した疑いがもたれている。だが、警察の調べに対し、「麻薬を輸入したとは思っていない」「膝が痛いので、痛みを和らげるために輸入した」と供述し、容疑を否認しているという。



一方で、小包の箱の中で錠剤が隠すようにして置かれていたとも報じられており、警視庁は、ハンプ容疑者が「オキシコドン」の違法性を知りつつ輸入したとみている。



トヨタの豊田章男社長は、記者会見で「法を犯す意図がなかったことが明らかにされることを信じている」と話していた。もし違法な薬物と知らなかった場合でも、薬物に関する犯罪が成立するのだろうか。刑事事件にくわしい伊藤諭弁護士に聞いた。



●「身体に有害で違法な薬物」と認識していたか


「仮に起訴された場合、あくまで報道からの推測ですが、『オキシコドン』を輸入する認識があったのか、『オキシコドン』が麻薬取締法における『麻薬』に含まれるという認識があったのか(違法な薬物との認識があったのか)という点が、大きなポイントになると思われます」



伊藤弁護士はこのように述べる。違法な薬物という認識があったかどうかは、どう判断するのだろうか。



「覚せい剤取締法違反の事件で、最高裁判所は、明確な覚せい剤の認識がなかったとしても、『身体に有害で違法な薬物類である』との認識があった場合は、犯罪の故意を認めています(平成2年2月9日決定)。



今回の事件についても、輸入した錠剤が、身体に有害な違法薬物類であるとの認識があれば、有罪は免れないものと考えます。



具体的には、検察は、小包の形状や梱包方法、申告書に記載された品名などの状況から、正直に申告すれば輸入ができない物、つまり違法なものであるとの認識があったという立証をしていくものと考えられます」



●情状による軽減も厳しいのではないか


日本の法律で禁止されていることを知らなかった場合、そのことは影響するだろうか。



「刑法38条3項は『法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない』と定めています。容疑者が日本の法律を知らなかったとしても、それだけで故意がなかったとはなりません。



もっとも、情状により、刑が減軽されることはあります。



ただ、容疑者は有名企業の役員で、高いモラルが求められる立場にあることや、米国においても『オコシコドン』は規制薬物(医師の処方が必要)であることから、もし有罪となった場合、軽減は厳しいのではないでしょうか」



伊藤弁護士はこのように述べていた。


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
伊藤 諭(いとう・さとし)弁護士
1976年生。2002年、弁護士登録。横浜弁護士会所属(川崎支部)。中小企業に関する法律相談、交通事故、倒産事件、離婚・相続等の家事事件、高齢者の財産管理(成年後見など)、刑事事件などを手がける。趣味はマラソン。
事務所名:市役所通り法律事務所
事務所URL:http://www.s-dori-law.com/


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