2011年には宮崎県の高校の寮で集団感染も
川崎医科大学小児科学の尾内一信主任教授(右)と中野貴司教授脳と脊髄を覆う「髄膜」の内部で起こる炎症を髄膜炎といいます。髄膜炎には無菌性と細菌性の2つに分けられ、細菌性髄膜炎の中で髄膜炎菌によって起こるのが「髄膜炎菌性髄膜炎」です。日本における髄膜炎菌性髄膜炎の発症率は低いものの、“流行性髄膜炎”との別名があるように、感染力が強く、集団感染を起こしやすいことから、そのリスクは無視できるものではないと考えられています。
髄膜炎菌が血液や髄液の中に侵入しておこる感染症が侵襲性髄膜炎菌感染症(IMD)です。日本国内でも2011年に宮崎県の高校の寮で集団感染が報告されたことに加え、感染症法が定める「学校において予防すべき感染症」になるなど、国を挙げての対策を行っています。ところが、IMDの認知は広がっていないのが現状です。
サノフィ株式会社が行った、乳幼児ならびにティーンエージャーの子どもを持つ母親と小児科医を対象としたIMDに関する意識調査の結果では、IMDについて内容を知っている母親は1割以下、見聞きしたことがある、という回答を含めても約2割にとどまっています。また、小児科医でも認知は高いものの、発症リスクについてはあまり知られていないことが分かりました。この調査の発表に合わせて行われたプレスセミナーでは、川崎医科大学小児科学の尾内一信主任教授と中野貴司教授が講演しました。
5歳未満の乳幼児とティーンエージャーに発症が多い
IMDは感染から2〜10日後に発症。初期症状は発熱、頭痛、嘔吐等の風邪の症状と似ています。しかし、適切な治療を開始しないと症状は急速に悪化。発症後13〜20時間ごろには皮下出血や首の硬直などがみられ、その後、意識障害やけいれん発作を起こすことがあります。
「IMDは発症から24〜48時間に患者の5〜10%が死亡することに加え、一命をとりとめても11〜19%の割合で難聴や神経障害、四肢切断などの後遺症が残るとされています」(尾内先生)
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発症が多い年代は5歳未満の乳幼児とティーンエージャーで、ティーンエージャーは死亡率が最も高いとされています。世界および国内での発生状況は、アフリカ中部を中心に流行が確認されており、2009年の流行時にはアフリカ14か国で8万人以上が発症、5,000人以上が死亡したとされています。先進国でも、集団生活を行う学校の寮などで、散発的な感染が報告されています。
「日本国内でも2011年に宮崎県の高校の寮で集団感染があったように、集団発生するリスクが存在しています」(尾内先生)
ワクチンで予防することができるIMD
IMDはワクチンで予防することができる病気です。もっとも多く流通しているワクチンである4価髄膜炎菌ワクチンは、世界55の国と地域で承認されています。その1つで、髄膜炎菌ワクチンの接種率78%(2013年)の米国では、11〜12歳と16歳の2回ワクチン接種を実施しているほか、軍隊への入隊時や大学の入学時などでもワクチン接種が推奨もしくは義務付けられています。日本では、これまでIMDを予防するワクチンがありませんでしたが、2015年5月より4価髄膜炎菌ワクチンの接種が可能になりました。
「今回承認された4価髄膜炎菌ワクチンは、もうすでに世界で7000万回分以上接種されており、安全性と有効性に関する多くの実績があります。生活年齢や発症年齢、そして、来院の手間を考えると、11〜12歳でDT(2種混合ワクチン)と併せて接種することが有効だと思います」(中野先生)
経済のグローバル化に伴う人の移動のグローバル化に加え、2020年の東京オリンピックを控え、感染症にはより一層の警戒が必要です。ワクチンで予防することができるIMDについて、まずは「この病気は何か」を知ってみることが重要です。(QLife編集部)
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