地球上の生命は宇宙からやってきたかもしれない、という説がずいぶん昔からあった。何とも壮大で荒唐無稽に思える話しだが、ひょっとするとひょっとするぞ、という実験が行われ、生命の宇宙起源説を否定できない結果が出てしまった。
かといって、生命の宇宙起源説が証明されたわけでは無いので早まらないで欲しい。ただ、可能性が否定しきれていない、という状況にあるのだ。この生命の起源を宇宙に求める考え方を、『パンスペルミア説』と呼ぶ。この説では生命は地球で誕生したわけでは無く、他の天体の生命が“何らかの方法”で地球にやってきたのだと考える。
その、“何らかの方法”はいろいろ考えられているが、その一つが隕石によって地球に運び込まれたという説である。
宇宙から地球に落下させた隕石の中で生きていた生命
しかし、隕石が宇宙空間を漂い地球に突入する際には、余りに過酷な環境を経なければならないため、この考えは否定されてきていた。
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ところがその一部の過酷な状況を、ロシア科学アカデミーの研究チームがこの7月に実験で再現して、生命が生き延びることができるかどうか確かめてみたのだ。
その結果、大気圏を通過した隕石の中でも、微生物の一部が生存できることが確認された。
彼らは『Thermoanaerobacter siderophilus』という微生物を実験に使った。この微生物は、火山の通気口付近で発見された微生物で、高温に強い耐性を持っている。
この微生物を直径約7センチの玄武岩でできた人工隕石に埋め込み、ロシアの人工衛星『フォトンM4』に取り付けておき、地球の軌道に乗せた。
そして45日後に地球に落下させたのだ。落下の途中で隕石が体験する温度は華氏1,800度(摂氏約982度)にもなる。
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そうして地球に落下して戻ってきた隕石を回収し、研究所で余計な微生物に汚染されないよう細心の注意を払って観察したところ、なんと24のサンプルの内、4つは全く問題無く成長を継続していることが確認できたのだ。
この実験結果から、生命が隕石によって地球にもたらされた可能性は、否定しきれないという結論に至った。
宇宙に浮遊する生命を捕らえろ
ところでこの『パンスペルミア説』については、日本でも別の実験でアプローチする実験が進められている。その名も『たんぽぽ計画』だ。
もし宇宙空間を、生命の種がタンポポの種の様に漂っているのならば、宇宙空間で捕らえることができるはずだという実験だ。
研究グループ代表は東京薬科大教授(極限環境生物学)の山岸明彦氏だ。JAXAを始め大学など国内の26機関が参加しているという。
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こちらは5月26日に、ISSの日本実験棟『きぼう』の船外施設に特殊な装置を設置して実験を開始している。
装置には、エアロゲルと呼ばれる板状の特殊なシリカゲルが使われている。ここに宇宙を浮遊していれば秒速数キロから十数キロで衝突してくる微生物の衝撃を、和らげながら捕らえるのだ。
『たんぽぽ計画』では、上記実験に平行して、地球から持ち込んだ微生物を宇宙空間に直接曝す暴露実験も行われる。宇宙空間で生き延びる微生物の存在をこちらでも確認しようというのだ。
生命の起源は明らかになるか
地球の生命の起源を宇宙に求めるパンスペルミア説にはいくつかのバリエーションがある。ロシアが実験した隕石に生命が乗ってくるタイプは、『弾丸パンスペルミア』や『岩石パンスペルミア』と呼ばれる。
いや、微生物は隕石などに頼らなくても、160ナノメートル程度のサイズであれば、恒星からの光の圧力で宇宙空間を移動することができる、という『光パンスペルミア』もある。
以上はいずれにせよ、宇宙空間の過酷な環境を生き延びなければならないが、もう一つ変わったバリエーションがある。それは、『意図的パンスペルミア』というオカルトチックな仮説だ。
これは、遙か昔に、地球外の知的生命体が、生命の種をまいたとする説だ。もう、ここまで来ると、妄想としか言えなさそうだが、生命を構成する元素や遺伝暗号の仕組みに根拠があるとする仮説なのだ。
これらの壮大な生命の起源の探求は、いつか真実を明らかにすることができるのだろうか。