パタゴニアが、また刺激的なキャンペーンを始めた。これまでも自社製品に対し「買わないで」広告を発表したり、爆破の映像が衝撃的なダム撤去活動『ダム・ネーション』など、強いメッセージ性を持つ広告と環境活動で、常に社会へ波紋を投げかけ、賛否両論の渦を巻き起こしてきたパタゴニア。次に仕掛けるアクションは、ずばり“デニム革命”。
デニムという存在の“業の深さ”を包み隠すことなく、前面に押し出した「Because Denim is Filthy Business(デニムは汚いビジネスだから)」というメッセージは、消費者だけでなく全生産者や販売業者、そしてパタゴニア自身にも向けられた強烈な言葉だ。このメッセージに込められた意味と、パタゴニアが見据える未来の姿を考えてみよう。
「filthy」に込められた意味
“filthy”という単語は、日本人にはあまり馴染みのないものかもしれない。“汚い”といえば“dirty”が定番で、初めてこの単語を目にしたという人がほとんどだろう。
それもそのはず、この“filthy”は“汚い”の最上級的表現で、“取扱い注意”単語の代表格でもある。大金持ちを“filthy rich”と表現する場合があるが、これは“倫理観の欠如した非道な奴”といったようなニュアンスを持つ。ジョークや皮肉が通じる範囲内でのみ許される表現で、面識のない相手に対してや公の場での使用は大参事となるだろう。
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そんな言葉を、あえてデニムに関わる全ての人へ向けたメッセージの核心として使ったパタゴニアの強い思いに、その確固たる意志の強さと自信を感じずにはいられない。自らの“穢れ”や“未熟さ”すら隠さない姿勢こそ、デニムを愛する者に相応しいと言えよう。なぜなら、かつてデニムは自信の象徴だったのだ。決してジーンズは、ただの“肉体労働者の作業着”だったわけではない。
革新的製法によるデニム革命
90年代よりオーガニックコットンの使用やフェアトレードに取り組んできたパタゴニアのデニムであったが、今回の自信に溢れたキャンペーン最大の売りは、革新的な染色工法を活用したというところにある。
ジーンズの象徴でありながら、デニムビジネス最大のタブーでもあった、青の染色をめぐる不都合な真実。染めるために大量の水とエネルギーを使い、ストーンウォッシュや微妙な色のバリエーションを生み出すために、大量の水とエネルギーを使う。
それだけに留まらない。ジーンズはその原料となるコットン生産において化学肥料や殺虫剤、除草剤を用いるなど環境負荷が非常に高い。更には、その労働者たちは向上において労働力を安く買い叩かれ公正な扱いを受けることがなかった。デニムビジネスは、まさに“filthy”な、汚いビジネスなのだ。
しかし、それに対し正面から異を唱え、自らメスを入れたのがパタゴニアだ。新しい染色工程を導入したことにより、CO2排出量は25%、エネルギー使用量は30%それぞれ削減された。そして、驚くべきことに、水の使用量は84%もの削減に至ったのだという。
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現在、世界各地で深刻な水不足が報告されている。増え続ける人口、拡大し続ける農業と生産活動、天候不順と加速する環境の変化……。近い将来の世界的規模の地下水枯渇も指摘され、「21世紀の争いは水をめぐる争いだ」とも言われている。
特に、パタゴニアの本拠地でもあるアメリカ西海岸から中西部にかけては、将来の水不足が世界で最も深刻な地域として知られている。彼らの危機感はリアルだ。
最後に、同社のキーパーソンでもある、カナダ北西部のキタマットに住むハイスラ族の元酋長であったジェラルド・エイモス氏の言葉を同社サイトより引用しよう。
<パタゴニアが責任ある企業のモデルだ、などと言うつもりはありません。責任ある企業ならやれるはずのことを、我々が全てしているわけではないからです (私たちが知る限り、そこまでしているところはありません)。しかし、事業を推進するにつれ、自分たちの環境責任や社会責任に人々が気づき、自分たちの行動を変えていく様子を紹介することならできます。気づきは波及するもので、ひとつの行動は次の行動につながっていく 。その様子も紹介できるのです。
それでも、パタゴニアは完全に責任ある企業にはなれないかもしれません。道は長く、地図もありません。しかし地形を読みながら、次の段階へと一歩ずつ進んでいく方法はあるのです。>
【参考・画像】
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※ デニムは汚いビジネスだから」 – パタゴニア・デニム
※ 「Don’t Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」:ブラックフライデーとニューヨーク・タイムス紙 – パタゴニア
※ ダム・ネーション – パタゴニア