「もしうちに来ると決めるならば内定を出す」。東京都内の大学に通うDさんは、就職活動で出身地の地方銀行の社長からそんなことを言われ、つい、「はい」と答えてしまった。しかし、実際は就職活動を続けたいと考えていて、悩んでいる。
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Dさんは社長と人事担当者と会食した際、社長から「もう就活を辞めていい。君には大いに期待している」と言われ、入社の意思を示すよう促された。Dさんはその地方銀行に不満があるわけではないのだが、他の企業もいろいろ受けて、「自分の力を試したい」そうだ。
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「就活をやめれば内定を出す」と言われて「はい」と答えたのに、Dさんが就職活動を続行することは、問題ないのだろうか。労働問題に詳しい山川典孝弁護士に聞いた。
「企業から『ウチにくるなら内定を出す』と言われて『はい』と答えたとしても、就職活動を続けることは、法的には問題ありません」
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山川弁護士はこのように述べる。なぜだろうか。
「内定の法的性質は、(始期付き解約権留保付き)労働契約と解されています。
内定が成立した段階で、労働契約が成立したとみなされます。ただ、内定から入社までは期間があるので、その契約の効力が発生する期日、つまり『始期』をさだめ、入社までに止むをえない事情が発生した場合には、内定を取り消すことができるように『解約権』を留保しておこうというわけです」
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条件がついてはいるが、契約は成立しているというわけだ。仮にDさんが別の企業の内定をもらって、今回の企業の内定を辞退したら、契約違反ということにならないだろうか。
「就活生が内定を辞退するというのは、法的には、労働契約を解消する、すなわち退職と同じ扱いになります。
会社員が退職する場合、民法上、2週間前に、退職する旨を使用者に伝えることが必要とされていますが(民法627条1項)、それ以外に制限はありません。
ですから、Dさんが、内定をもらったあとに内定を辞退することは、信義則に反するなど例外的な場合をのぞいて、法的には問題ありません。会社から損害賠償を求められたとしても、応じる必要はありません。
会社員が会社を辞めるときに、『他の人材を確保しなければならなくなった、損害賠償を払え』なんて言われても、応じる人はいないでしょう。それと同じことです。
内定を辞退することが違法でない以上、内定をもらったあとも引き続き、就職活動することも法的には問題ありません。
なお、内定を辞退する際ですが、口頭で伝えると、あとで、言った・言わないの争いになることもあるので、口頭で伝えるとともに、書留等、あとに残る形でも通知したほうが良いでしょう」
山川弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
山川 典孝(やまかわ・のりたか)弁護士
取扱業務:後見関連業務のほか、債務整理(任意整理、自己破産、個人再生)、労働問題(残業代、不当解雇、パワハラ)、債権回収、交通事故、立退き、消費者問題、行政訴訟、離婚、遺産分割、遺言、刑事など幅広く取り扱っております。
事務所名:山川法律事務所
事務所URL:http://www.yamakawa-law.gr.jp
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