『里山資本主義』(角川書店:藻谷浩介・NHK広島取材班共著)という本が、2013年にベストセラーになり、『里山資本主義』という言葉自体も流行した。
これは、金の循環が全てである“マネー資本主義”のサブシステムを、一人当たりの自然エネルギー量が大きな地域に構築しておいたらどうか、という提案だ。
そして、地域の衰退や少子化といった課題も、解決する可能性があるとしている。
この『里山資本主義』は、多くの人たちに絶賛された一方、不都合な事実が隠されているとの批判も多く出た。
そのように、賛否両論で盛り上がった『里山資本主義』を支えているひとつが、木質バイオマスの利用だ。
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バイオマス発電を地域の活性化に
8月25日、エジソンパワー社は、木質バイオマスのガス化発電事業を、全国展開することを発表した。その第1号機を茨城県大子町に設置するために、10月に着工する。
この、木質バイオマスのガス化発電の発電出力は1,100kWで、燃料に地元の山間部から間伐された木材だけを利用する事が特徴だ。
その間伐材は、大子町の林業団体と供給契約を締結して供給される。発電された電気は、固定価格買取制度(FIT)を利用して東京電力に売電され、その収入は、年間約4億円を見込んでいる。
また、廃熱は同町の公共施設や温泉街などに供給することを予定している。
既に、2号機も来年12月からの稼働を目指して、栃木県佐野市に設置することが決まっている。
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その後も全国10箇所ほどで、小規模バイオマス発電事業を行う予定だ。更に、発電過程で生じるガス化工程で水素分離ができるため、木質バイオマスのガス化発電に水素ステーションを併設する計画もある。
この木質バイオマスのガス化発電に、何が期待されているかというと、例えば第1号機が設置される茨城県大子町は、年々人口が減少している“消滅可能性自治体”と言われている地域だ。
後述する、オーストリア・ギュッシング市が、木質バイオマス発電を設置したことで、地域を再活性化させた実績を真似て、地域の活性化と森林資源の有効活用を図ろうというのだ。
オーストリア・ギュッシング市の成功例に続け
さて、その成功例とされているオーストリア・ギュッシング市では、何が成功したのか。
同市は、オーストリアの東端に位置する小さな地方自治体で、人口約4,000人だった。1995年までの40年間で企業立地数はゼロ、住民の7割は村外に働きに出ていた“オーストリアで最も貧しい地域”と呼ばれる地域だった。
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ここに木質バイオマスのガス化発電が導入されると、1995年から2005年までの間に約60社の企業を誘致でき、1,200人の雇用を創出したというのだ。
つまり、従来のような、外部に金が流出する化石燃料を使わなくなり、地域が持つ森林資源が有効活用されることで金が地域内で回り始めたのだ。
それどころか余った電力を外部に売ることで、外からも金が地域内に入ってくる流れができた。税収も一気に増加した。
それに伴い、企業や人材がギュッシング市に集まった結果、小売業が入り出し、観光産業が盛んになり、インフラ整備も進んだのだ。
この成功モデルにあやかりたい大子町でも、年間約1万2,000トンの未利用木材の調達などで、木材の切り出しや植林によって、地域内の雇用が創出されるとみている。
さて、大子町とエジソンパワー社が取り組む『里山資本主義』は成功するだろうか。
【参考・画像】
※ エジソンパワー 木質バイオマス・ガス化事業を全国展開 1号機は茨城県大子町 – ValuePress!
※ オーストリア・ギュッシング 人口4000人の寒村に起きた奇跡 – 月刊「事業構想」2015年3月号
※ tchara / Shutterstock
※ Les Haines / Flickr