もしかするとあなたも!?衝撃的な発症率の調査結果が出た「産後うつ」とは 緊急座談会「ネガティブ・スパイラルからママを救いたい(前編)」

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2015年09月09日 19:10  QLife(キューライフ)

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QLife(キューライフ)

 「産後うつ」という言葉をご存知ですか?出産直後のママが、さまざまな要因で抑うつ状態になることをいいます。一部の研究者のあいだでは、妊娠中から産後直後に母親が一定の割合で抑うつ状態になることは知られていましたが、大規模な信頼できる調査が行われたことは少なく、実態についての定まった評価というのもありませんでした。ところが今年6月に発表された、国立成育医療センターを中心としたチームの研究結果が大きな話題を呼んでいます。


※1 「妊産婦のメンタルヘルスの実態把握及び介入方法に関する研究 平成26 年度 総括・分担研究報告書」 厚生労働科学研究費補助金 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業(健やか次世代育成総合研究事業)より

 このグラフを見て明らかなように、時期によりますが、最高でなんと25%のママが産後うつの疑いがあるというのです。この結果について、そして「産後うつ」をめぐる現状について、長年この問題に取り組んでいる婦人科医の方やNPO法人の方にお集まりいただき、子育て中の弊社の人間もまじえてじっくり話していただきました。

【今回の出席者】
宗田聡先生:医師、医学博士。医療法人社団HiROO理事長/広尾レディース院長
吉田穂波先生:医師・医学博士・公衆衛生修士。国立保健医療科学院 主任研究官、内閣府少子化社会対策大綱検討委員
吉岡マコさん:NPO法人マドレボニータ代表
林理恵さん:NPO法人マドレボニータ理事
QLife大川:QLifeアカウントマネジャー。1児の母。子育てと仕事の両立に奮闘中。

妊娠中から笑顔の消えた浮かない顔

宗田聡先生

―QLife編集部:本日は皆様、お忙しい中ありがとうございます。最近の調査結果も踏まえつつ、産後うつのいまとこれからについて存分に語っていただければ。まず宗田先生、長年産後うつの専門家として関わられていると思いますが・・・。

宗田聡医師(以下、宗田):もともと出生前診断を専門として大学で診療を行っていました。おなかの赤ちゃんの病気や異常をみつけ、その後出産してお子さんが新生児科に入院となる方も少なくなかったのですが、産後の1か月健診でお母さんの身体の診察は産婦人科で行って、特に問題はなかったのに、お母さんの顔が沈んでいたり、不眠を訴える方がいたり。当時は、あまり医師の間でも産後のメンタルヘルスは関心が低く、先輩医師に聞いても誰もよく分からなかったんですね。それが遺伝子研究のためアメリカに留学したとき、むこうで女性の健康を心身ともに幅広くみる「Women’s Health(ウィメンズヘルス)」という部門でも週に一度勉強させてもらっていたら、妊娠前、妊娠中、産後のおかあさんのメンタルヘルスについて、実に詳しく研究や診療をしていたのに驚きました。これは日本に戻ったらみんなに知ってもらわないといけない、ということで帰国してからは積極的にお知らせしているつもりなんです。

でも当初はそれほど広まらなかったですね。当時は医師の方も他のことで忙しく、あまり関心をもつ方も少なかったですね。しかし、ここ5年くらい、その状況が変わってきた気がします。

―QLife編集部:それはどんなふうに変わってきたと思われますか。

宗田:「産後うつ」という言葉が知られてきたというのはもちろんですが、女性の社会進出にともなって彼女たちを取り巻く環境や結婚年齢が遅くなっていることなどで、メンタルの問題をかかえる妊産婦さんが増えているからせいかと思っています。

最近感じていることは、日々診療していると、妊娠中から浮かない顔や不安そうな顔、眉間にシワ寄せて「私の赤ちゃん大丈夫ですか?逆子じゃないですか?」なんて心配してる妊婦さんが多くなった印象をもっています。

おそらく、以前はそうじゃなかったのかなって。妊娠ってハッピーなことじゃないですか。だからご本人は子どもができてうれしくて、ちょっと浮かれていたりして、笑顔あふれていて、そういう感じだったと思います。ところが、今は不確定な情報がインターネット経由で簡単にはいってくるため、そういう情報を見て「私の赤ちゃんは大丈夫?」って、ネット情報に惑わされて不安になっている印象がとても強いですね。

林理恵さん(マドレボニータ理事)(以下、林):よく分かります。妊娠するとまずインターネットで調べる方が多いかもしれません。不安をあおるような情報に目がいきがちで、その結果、さらに不安になるのではないでしょうか。

宗田:妊娠して幸せなことなのに笑顔になれないのって、すごくもったいないというか。もちろんニコニコしてる方もいらっしゃいますけどね。

なぜ、ママたちは不安に苛まれるのか?

―QLife編集部:まず情報をネットで調べて不安になって・・・というパターンに陥る要因って何だと思われますか。やはり核家族化とか、生活スタイルや地域の繋がりの希薄化といったところでしょうか。

宗田:考えてみると妊娠とか言う以前に、独身のときでも核家族だと赤ちゃんや子ども、そのお母さんと接すること自体が少ないですよね。一人っ子も多くなってしまったから。そういう環境の人にとっては、妊娠はまさに人生初の「未知の世界」ですよ。

普段の健診でよくあるエピソードなんですが、妊婦さんのお腹の大きさの話。本人がまわりから小さい、小さいって言われて不安になって相談してくるんです。でも小さい、小さいって言っている人たちは果たしてどれだけその週数の妊婦さんのお腹の大きさを知っているのでしょうか?

実際は本当のことをよく知らない人が、不確かな情報を手に入れて、それを妊婦さんに言って不安にさせるというスパイラル。

林:その話もよく聞きます。言っている方は「妊婦さんにしてはお腹が小さくてスタイルいいですよ」と褒めてるふしもきっとあるんですよね(笑)

QLife大川(以下、大川):それ私も言われたことあります(笑)

左から宗田聡先生、吉岡マコさん、林理恵さん

―QLife編集部:言われた方にしてみれば不安になりますよね・・・赤ちゃんきちんと大きくなってるのかなって。

大川:確かにチグハグな感じしますよね。産科の先生に深堀りして聞いたりせずに、まわりのよく分かってない人やネットの情報だけ見て落ち込むっていうのは。

宗田:情報だけはすぐ手に入るため「耳年増」になってしまうのですが、それが本当なのかどうか確かめようっていう人が少ない。せめて、周りにもっと情報を正しく知っている人がいれば別なのでしょうけどね。

―QLife編集部:同じ環境の妊婦さんのコミュニティがない、ということなんでしょうか。

林:コミュニティ・・・確かに。むしろ産んだ後だと、子どもを通じて地域に友達ができるので状況は少し改善すると思います。でも妊娠中は、これまでの友人に悩みを相談することが難しい場合もありますよね。働いていると特に家と職場の往復のみですし、職場に自分と同じ状況の同僚も、なかなかいないと思います。妊娠週数でも状況が全然違いますしね。

宗田:昔は専業主婦が多かったため、昼間は地域にいるじゃないですか。妊娠してもしてなくても時間があるからお話もいっぱいしますし、コミュニティが自然にできていた。その中に妊婦さんもふつうにいたはずです。

大川:産後の話ですけれど、生後3か月と半年と8か月、時期が違うと気になることや相談したいことがまったく違ってくるっていうのはすごく分かります。それから目の前のその時期の子どものことで頭がいっぱいで、経験したはずの過去のことは忘れちゃうというか・・・。社内に相前後して出産した同僚もいるのですが、男の子と女の子でも事情が違うし、産んだ時期も結構違うので、同じ悩みというのも案外ないものなんです。だから私も「他のお母さんもこんなことしてるんだろうか」と、いつも一人で悩んでました。

『お母さん』という人格であろうとして、仮面をかぶってる

―QLife編集部:吉岡さんは、コミュニティというか、お母さん同士が繋がるということを考えながら、産後うつの予防プログラムというのを推進されてますよね。

吉岡マコさん(マドレボニータ代表、以下吉岡):2つ目的がありました。1つ目は、産後の身体の回復を手助けする機会を提供したいということと、2つ目は母となった女性が、ママトークではなく、一人の大人の女性として、普通に大人の話ができる場をつくりたかったということです。お母さんが集まる機会自体はそれなりにあるんですよ。でもそこで皆さんが話すことって、オムツの話とか、離乳食の話とか、ベビーカーの話とか、似たような話ばかりでなんだかつまらないな・・・と感じていて。

大川:それすごく分かります・・・。

吉岡マコさん

吉岡:みんな、そこでは「お母さん」という人格であろうとして仮面をかぶって、自分を出すことはないんです。どんな音楽が好きとか、どんな小説が好きとか、そんな話はまずしないから、その人が見えてこない。ましてや、悩みなんて話せるわけがない。私が産後だったとき、ママ友ではなく、心を開ける子持ちの友達が欲しいと感じていました。そのために必要なことは・・・と考えて、まず体をみんな一緒に動かして場を共有して、そうすると気持ちがオープンになる・・・ということ、エクササイズとコミュニケーションを組み合わせた教室をやっています。

―QLife編集部:参加された方はどんな感想というか、どんなことをおっしゃいます?

吉岡:産後3か月くらいのある方のお話ですが、いらっしゃった日に「今日が産後はじめてのお出かけです」と仰るので、それまでどちらにいらっしゃったんですかと聞けば「家です」と・・・。こちらに来るまで毎日ずっと家とスーパーの往復で、レジで「袋つけますか?」「いえ結構です」程度のやりとりしかしてないと。出かけないどころか人ともほとんど話さない、社会の接点が買い物にしかなかった3か月ということで、なんだこの不健全さはという・・・。

―QLife編集部:どうしてそうなっちゃうんでしょうね・・・。

吉岡:今の話ほどじゃなくて、まわりに雑談はできる人がいたとしても・・・まあ雑談は雑談ですよね。深い話ができるわけではない。ではパートナーと話せばいいじゃないかという人もいますが、もちろん夫との会話はうれしい。だけど、産後の時期はバタバタしていて「業務連絡」みたいになってしまって、それはそれで寂しいんです。また、夫は女子じゃないので、女子トークはできない(笑)

女子トークは女子としたいし、夫との会話はそれはそれで嬉しい。両方必要なんです。

宗田:そうですね(笑)

吉岡:当たり障りのない雑談ではなく本音のトークがしたい、という欲求がやっぱりあるんです。妊婦になり母になると、そういった機会がなくなってしまい心のどこかに物足りなさを感じながら、こういうものなのかなと自分に折り合いをつけるしかない。育児や家庭の雑事に忙殺されて、自分のその欲求にも気付かないほど余裕がなくなることも。そうなると、目の前の自分の子どもが、可愛いはずなのにそう思えなくて、そう思えない自分をまた責めるということにもなる。

林:一時期、自己責任という言葉をよく耳にしました。その意識が「一人で抱え込む」という状況を助長しているんじゃないかと。

吉岡:日本はそういう意味で、本当にセーフティネットがないなと思うんです。みんなで子育てを支える文化というか、意識がないなと。

宗田:それは本当にそう思いますね。海外の街中を歩いていると違いがよく分かる。知らない人がベビーカーを運んであげたりなんて当たり前だし、列車だとすぐ席を譲ってくれるし、列に並べば前に押し出してくれる。あれを経験しちゃうと、1人旅行よりも子連れのほうがすごくラクで便利だなと思っちゃいます(笑)

赤ちゃんやママは歓迎されざる存在なのか

―QLife編集部:海外の子育て事情からふりかえって、日本ではどうでしょうか?

宗田:日本では残念ながら、逆です。ベビーカーのお母さんはいやな顔されますね。もう全然違う。

吉田穂波先生

吉田穂波医師(以下、吉田):私はドイツやアメリカで子育てする機会がありましたけど、一番の違いは、日本では子どもがマイノリティになってしまっているということじゃないかと思います。人口比でいっても、高齢者は30%くらい、障がいを持つ方も6%くらいですが、赤ちゃんはそれよりもはるかに少ない1%以下ですよね。街中でも、まわりでも見ることが本当に少ない。そこに無理解が生まれてしまうというか。いまやペットの数のほうが多いため、人間の子どもよりペットのほうに関心が高い人が多いのかもしれません(笑)

宗田:日本人の感覚にはマイノリティを隠す、マイノリティであることを恥じる、っていうのがありますよね。みんな同じじゃないといけないというような。海外だとそういう概念ではなく、当たり前のようにみんな人種や起源の文化が違うから、むしろ隠さないで自分がヘンな人ではないことをアピールしなきゃいけない(笑)。知らない人同士でも「Hi!」って挨拶しあうとか。それによって社会の安全を担保するという前提の文化ですね。

戦前は、病人や障がいを持つ方などを隔離したり隠したり、ということが地方によってはあったみたいですね。そういった思考はいまでも残っているのではないでしょうか。さきほど吉田先生が仰ってましたが、赤ちゃんより多いとされる障がい者の方ですら、日本の街中でほとんど見ることがありません。

 産後うつ発症の背景を探るうち、いつの間にか社会のマイノリティに対する認識論にまで議論が深まってきました。次回は、長年この問題に取り組んでいる出席者の方々が、産後うつのために取り組んできたこと、これから取り組んでいくことについて伺います。(後編に続く)

宗田聡先生:医師、医学博士。医療法人社団HiROO理事長/広尾レディース院長 専門は周産期医療、出生前診断、胎児医学、遺伝医学、メンタルヘルス、医療倫理、プライマリケア、医療IT、女性医学。日本産科婦人科学会認定医・指導医、臨床遺伝学認定医・指導医、認定産業医・スポーツ医、アメリカ人類遺伝学会(ACMG)上級会員(Fellow)
母校の大学病院で講師として臨床医療・教育・研究に関わり、留学後に幅広い医療、特に女性の心とカラダの健康を総合的にサポートする医療を理想として、地域周産期センター長を歴任後、都内で都市型かかりつけ医のクリニックを開業。日英論文多数、専門書(翻訳)執筆にも定評があり、一般誌でも「Anecan」など様々な雑誌で女性の健康に関する記事を多数執筆。著書には「産後ママの心と体をケアする本」(監修)、「31歳からの子宮の教科書」「産後うつ病ガイドブック」「ニューイングランド周産期マニュアル第二版」など。 吉田穂波先生:医師・医学博士・公衆衛生修士。国立保健医療科学院 主任研究官、内閣府少子化社会対策大綱検討委員 日本で医学教育を修了、聖路加国際病院で臨床研修ののち、名古屋大学医系大学院で博士号を取得。その後ドイツとイギリスで産婦人科及び総合診療の分野で臨床研修を行い、帰国後は産婦人科医療と総合医療両方の視点を持つ新しいスタイルの医師として女性の健康に特化した女性総合外来の立ち上げに携わった。その後女性の健康ケアや女性医療を向上させるためハーバード公衆衛生大学院に留学し公衆衛生修士号を取得し、同大学院のリサーチフェローとして少子化対策に関する政策研究に取り組む。東日本大震災では産婦人科医として妊産婦や新生児の救護に携わる傍ら、災害時の母子保健対策の必要性を感じ、新しい切り口で行った実践研究の成果を、日本のみならず、国際学術大会や米国の学術誌などで発表してきた。現在、医療保健分野の研究・教育施設である国立保健医療科学院において、研究者の育成、災害時の母子保健システムに関する研究、ボトムアップで政策提言ができる環境作り等に貢献している。また、妊産婦救護トレーニング普及、コミュニティ防災事業、イギリスやアメリカなど諸外国との共同研究や、災害分野の政策提言、ガイドラインの作成に関わるなど国際的に活躍し、世界の母子保健向上に尽力している。4女1男の母。 吉岡マコさん:NPO法人マドレボニータ代表 東京大学文学部美学芸術学卒業、その後同大学院生命環境科学科(身体運動科学)で運動生理学を学ぶ。1998年3月に出産、産後の心身の辛さを体験。そのとき、母となった女性の健康をサポートする制度もサービスも日本にはまったくないことを知る。産後ケアの必要性がまったく重視されておらず、産後の心身の状態を知らずに出産する(させる)ことのリスクが重視されていないこの社会に違和感を感じる。同年9月に「産後のボディケア&フィットネス教室」を立ち上げ。以来、産前・産後に特化したヘルスケアプログラムの開発、研究・実践を重ねる。現場で研究・改良を重ねたプログラムは多くの産後女性の支持を受け、全国各地より要請を受ける。産後のヘルスケアの社会的な必要性を実感し、2007年11月にNPO法人マドレボニータを設立(2008年2月に登記)。 林理恵さん:NPO法人マドレボニータ理事 早稲田大学第一文学部卒業、金融系Slerにてシステム開発に携わり、現場でのトラブル多発を解決するためシステム開発プロセス改善に取り組む。第1子出産後にコンサルタントに転職、第2子出産後に面白法人カヤックに移りWeb制作の受託業務マネジメントを担当。人材紹介会社のシステム部PMOを経て現在、マドレボニータ理事。マドレボニータとの関わりは第2子妊娠中に参加したNECワーキングマザーサロンと第2子出産後に参加した産後のボディケア&フィットネス教室に始まる。その後会員チーム「キタカンボニータ」を立ち上げ、運営を実施。

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