以前から、人工骨にはチタンが使われることがあったが、この度スペインのサラマンカ大学病院で成功したのは、3Dプリンターで作られた、複雑な形状の“チタン製骨格”を埋め込む手術だった。
埋め込まれた人工骨は、胸壁腫瘍で、胸骨と肋骨(ろっこつ)の一部を失った患者に埋め込まれたが、かなり複雑な形状に合わせなければならなかったにもかかわらず、まるで手袋を嵌めるように、ぴったりと患者の骨と繋がったという。
果たしてどのような技術だったのか。
ぴったりとフィットする人工骨格を3Dで設計する
チタン製の骨格は、オーストラリアはメルボルンのインプラント・医療機器メーカーである、Anatomics社が豪州国立学術基礎研究統合体(CSIRO)と合同で製造したものだ。
チタンとはいっても、複雑な形状と構造によって、骨と同じ様な柔軟性も備わっている優れものだ。
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この人工骨格を埋め込む患者の男性は、胸壁腫瘍で胸骨と肋骨の一部を失ってしまったのだが、その残った骨の接合部分は複雑な形状であった。
しかし、人工骨格を手術中に合わせながら削るわけにも行かない。そこでまず、患者の残っている骨格をCTスキャンし、そこから得られたデータで3Dデータを作った。
そしてこの3Dデータにぴったり接合できる様に、人工骨格の形状を3Dで設計したのだ。
そして設計された人工骨格の3Dデータは、130万ドルもするという金属3Dプリンターで出力された。
実は、3Dプリンターで“チタン製人工骨格”を出力したのは、これが初めてではない。しかし、今回の様に、姿勢で形状が複雑に変化する、胸部のチタン製骨格を出力したのは、今回が初めての試みだそうだ。
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従って、チタンでその胸部の骨が持っている柔軟性を再現するために、人工骨格は元あった骨の形状をそのまま再現せずに、機能を優先した形状になっている。
予め、3Dデータ上で形状の整合性を取ってあったため、埋め込み手術は成功し、術後半月ほど経った段階では、患者は順調に快復に向かっているという。
3Dプリンターの技術が医療に活かされていく
今回の手術で複雑な設計が施された、“チタン製人工骨格”が採用されたのには事情があった。
患者の骨の失われ方によって、残った骨同士が離れすぎていたのだ。つまり、補強しなければならない部分の距離が離れすぎていた。
そのためプラスチックのインプラントでは、形状と柔軟性が維持できないと予想された。
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しかし、単純にチタンで元の骨格を再現し、置き換えただけでは柔軟性が再現できない。
そこで、素材は丈夫なチタンでありながら、柔軟性を再現できる複雑な形状を3Dでデザインし、3Dプリンターで出力したのだ。
それらの技術が組み合わさり、患者にとって最適な形状で、丈夫さと柔軟さも兼ね備えた人工骨格が作られた。
このように3Dプリンターの技術が医療で活かされる機会は、今後ますます増えていくだろう。
【参考・動画】
※ Cancer patient receives 3D printed ribs in world-first surgery – News @ CSIRO
※ Cancer patient receives 3D printed ribs in world first surgery – YouTube
【画像】
※ cristovao / Shutterstock