アメリカ銃規制議論の行方…「憲法修正第2条」とハリウッドスター・ジョン・ウェイン

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2015年09月23日 18:00  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

日本には“憲法議論”というものがある。すなわち憲法9条を改正するか否かというものだ。

日本の憲法はいわゆる“硬性憲法”で、その改正には様々な条件が付与される。だからこそ9条の是非にまつわる議論が加熱化するのだが、実はそれは日本に限ったことではない。むしろ日本国憲法よりも遥かに長い歴史を有する条文が、とある国では熾烈な議論となっていいるのだ。

その国とは、他でもないアメリカ合衆国。この国に大きな影響をもたらしている『合衆国憲法修正第2条』をご存知だろうか? それにはこうある。

<規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有し、また携帯する権利は、これを冒してはならない>

すなわち、アメリカ合衆国は銃の所持を憲法で規定し、認めているのだ。そしてこの条文が今、解釈議論の対象になっている。

銃の力で独立を勝ち取る

アメリカ合衆国は、戦争により独立を勝ち取った国家である。この国は元々、ヨーロッパ諸国の植民地であった。

その中でもイギリス領だった地域が、理不尽とも言えるイギリスの課税政策に反発して独立運動を起こした。その当時のイギリスは、七年戦争の戦費が負債としてかさんでおり、植民地からの税収が命綱であった。だから可能な限り難癖をつけては、重税を搾り取ったのだ。アメリカ植民地に対しては、トランプにまで印紙を貼ることを義務付ける始末だった。

これに植民地の住人が怒り、立ち上がった。彼らは護身用のマスケット銃を手に取り、軍隊を編成したのだ。アメリカ独立戦争は、こうした民兵の活躍により大陸軍の勝利へとつながる。先述の『合衆国憲法修正第2条』は、この流れを反映したものだ。

18世紀から19世紀までのアメリカにとって、“規律ある民兵”は欠かすことのできない存在だ。独立を達成したとはいえ、イギリスの脅威がなくなったというわけではないからだ。さらに南にはメキシコがあるし、東海岸地域から西を開拓するのにネイティブアメリカンを駆逐しなければならない。銃で制圧すべき対象はいくらでもいる。

『アラモ』や『史上最大の作戦』といった名画に出演した、大物ハリウッドスターのジョン・ウェインは、まさに『憲法修正第2条』を具現化したような映画俳優だ。

ウェインは銀幕の中でネイティブアメリカンやメキシコ軍と戦った。特に1960年公開の『アラモ』では、マスケット銃を手に勇敢な戦いぶりを見せるデイビー・クロケット大佐の役を演じた。ウェインにとって、『アラモ』は映画人生の中で最も思い入れの深い作品となる。

<我々の自由は、銃があるからこそ保証されているのだ。そうでなければ今頃は、アメリカはイギリスとメキシコに蹂躙されていたに違いない>

ウェインは、映画館の観客に向けそう言いたかったのだ。

全米ライフル協会会長

『憲法修正第2条』とハリウッドスターのつながりで言えば、もう一人重要な人物がいる。

チャールトン・ヘストンだ。『ベン・ハー』や『猿の惑星』で主役を務めたことで、日本でもよく知られている。

ヘストンは、若い頃は人権派として知られていた人物だ。白人でありながら、あのキング牧師と共に公民権運動に従事し、ワシントン大行進にも参加した。ミケランジェロ彫刻に命を吹き込んだかのようなマスクと肉体、そして大学時代に養った巧みな弁論。アメリカでは“弁舌に長けたナイスガイ”が人々からもてはやされる。

そんなヘストンは晩年、全米ライフル協会の会長を務めていた。彼は銃規制反対論者でもあった。ヘストンの会長職は1998年から2003年まで続くことになる。当時は連邦法レベルの銃規制法案が存在したが、ヘストンはその撤廃を主張した。「銃がなければ犯罪者から見を守れない」というのがその根拠だ。

ところがその間に、アメリカの銃規制議論は大きな転換点を迎えることになる。1999年に発生したコロンバイン高校乱射事件が、その転換点だ。

生徒と教員合わせて13人の命が奪われたこの事件は、合衆国民の心に深い影を落とした。「やはり銃規制は強化されるべきではないのか」。ところが全米ライフル協会は、なんと事件の10日後に、コロラド州デンバーで銃規制に反対する集会を開いたのだ。のちに協会は、「事件の前から決められていたスケジュールだった」と弁明しているが、問題は事件を受けてもそのスケジュールを一切変更しなかったという部分にある。

その後もヘストンは集会の度に登壇し、熱弁を振るった。そしてこう叫んだのだ。

「死んでも銃は手放さないぞ!」

その主張は、ジョン・ウェインのそれと1インチもずれることはなかった。ヘストンもやはり、“護憲派”だったのだ。

アサルトライフルはいらない

一方で、こんな論調もある。

<憲法が定められた時代の銃は、先込め火打ち石式のマスケット銃を指す。現代の攻撃用小銃は、その対象にはならない>

つまりアサルトライフルや対物ライフルなどの銃の威力は、憲法が想定したものではない。だからそれを規制しても違憲ではないという解釈だ。

アサルトライフルの貫通力がシャレにならないということは、アメリカ人自身がよく知っている。『AR15』から飛び出た弾丸を防ぐには、中途半端な厚さの防弾チョッキでは意味がない。アメリカの銃規制賛成論者は、「まずはアサルトライフルから」という切り口で議論をする。

最近では、ハリウッドスターの中でも銃規制を呼びかける人物が出てきた。しかも長年の共和党員で、政治思想に関しては保守的なとある人物が「アサルトライフルなんかいらない」と公言している。

彼の名は、シルベスター・スタローン。もはや説明不要の大物俳優である。スタローンはかつてのジョン・ウェインのように、アメリカの愛国心を強調するかのような映画にいくつも出演している。機関銃を派手にぶっ放し、憎きソ連軍を叩き潰したこともある。ところが現実世界では、共和党員には珍しい銃規制推進派として知られているのだ。『ランボー』や『エクスペンダブルズ』といった派手なアクション映画に主演してきたあのスタローンが、だ。

スタローンは自分に正直な男だ。政治思想よりも“自らの声”を大事にする。教条主義に陥らないよう気を払っている節も見受けられる。だからこそ、民主党政権であるクリントン時代に成立した銃規制法案にも、スタローンは賛成していた。

結局、この問題は市民の心がけ一つの話なのかもしれない。立ち位置のちょっとした変更により打開策を見出すか、それとも果てしない教条主義の地獄に陥るか。決断は紙一重だが、その結末の落差は非常に大きい。

【画像】

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このニュースに関するつぶやき

  • アジアだって、「革命は銃口から生まれる」と言った人もいます。日本も銃と白刃から生まれたし、アジアの解放も銃口からでしたよね。
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