Uberが防戦に回る日…「タクシー会社巻き返し」のシナリオ

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2015年09月26日 15:00  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

かつて日本に“電卓戦争”と呼ばれる現象があった。

これはシャープとカシオが、より小型の計算機の開発を競った末に、エレクトロニクス分野が急成長したというものだ。我々は普段、パソコンやモバイル機器などを使うことによって毎日“液晶”に触れている。この液晶の技術は、まさに電卓戦争が築き上げたものだ。

そのような現象が、今まさに発生している。

筆者が読者の皆様に度々お伝えしている、Uberとそれを取り囲む世界のタクシー業界がまさにそれだ。ところにより“疫病神”のような扱いを受けるUberは、実は既存タクシー企業にとっての“カンフル注射”ではないのか。もっともこんなことを言うと、世界中のタクシードライバーに怒鳴られそうだ。

だが、今まで怠慢を貪ってきた彼らを突き上げ、より良いサービスを否が応でも追求させたという功績がUberにはある。

これこそが、まさに“健全な資本主義”ではないか。

Uberからの突き上げ

インドネシアに『ブルーバードグループ』というタクシー企業がある。同国最大の車両保有数を誇る会社だ。

半年サイクルで日本とインドネシアを往復している筆者は、この9月にジャカルタへ戻ってきた。その時にまず感じたのが、同地の配車サービス業界の劇的な変化である。

まず、市民がタクシーを呼ぶのに車道へ向け手をかざすことがなくなった。代わりにスマートフォンを使い、ブルーバードが提供するアプリで車両を手配する。そのほうが当然会計が明瞭で、小銭を持ち歩かずに済む。インドネシアの通貨ルピアは、1997年のアジア通貨危機の影響で単位が非常に大きい。そういった国は慢性的な小銭不足という問題を抱えていることから、ドライバーからしてもキャッシュレス決済は非常に魅力的なのだ。

そしてこれは筆者がよく言及していることだが、スマホ経由の車両手配ではボッタクられる心配がない。特に外国人がタクシーに乗る場合は、ほぼ必ずと言っていいほど余計な金額を上乗せされたものだ。ブルーバードですら、そういうことが日常茶飯事だった。だが今は、車内でのセコい悪事はすっかりなくなっている。

これまで、決してサービスの良くなかったタクシー会社が生まれ変わったきっかけは、やはりUberの登場だ。この“侵略者”の強大な勢いは相変わらずで、現地報道によるとジャカルタ、バンドゥン、バリの3ヶ所における提携希望ドライバーは、なんと6,000人にも上るというのだ。主に中小のハイヤー企業がUberとの提携を熱望しているという。

無理もない。中小零細の配車企業は、今まで観光地でチラシを配ったり外国人に声かけをしていた人々なのだ。そのような、効果の定かでない地道な作業から解放されるというだけで、充分にメリットがある。

だが、大手タクシー会社がそれを黙って見ているはずがない。ブルーバードは大胆な賭けに出た。

ブルーバード、大いなる賭け

日系企業のインドネシア熱は、未だ冷めていない。むしろ最近では、小売・サービス分野からのインドネシア投資が相次いでいる。

ジャカルタにはこの瞬間も、日本からの企業視察団が続々とやって来ている。ブルーバードはそれに目をつけた。

日系企業の海外進出を支援する『ハローG』という企業がある。進出先の調査や翻訳サービスなどが主な業務だ。そのハローGとブルーバードが、代理店契約を結んだのである。

空港から市内までの送迎や、運転手付きの車両チャーターがその業務内容で、何と日本語のタクシー予約サイトも用意されている。

筆者は前々から、ブルーバードは日系企業との連携に活路を見出すのではないかと考えていた。特にジャカルタは完全な車社会で、何かしらの車両を手配していないと暮らしていけないような土地だ。そんなジャカルタにおいて、ブルーバードと恒常的な契約を結びたいと考えている企業はあるのでは、と何となく思案していた。

それがこのような形で現実化したのだ。この国でのビジネスは非常に奥が深い。

そして、ブルーバードの賭けは大吉と出そうだ。

今年11月、日本旅行業協会と経団連が合同で編成したインドネシア交流団が現地を訪れる。元総理大臣の福田康夫氏や財界の重鎮、旅行業関係者、そして一般参加者で編成された約1,000名が11月20日にスカルノ・ハッタ国際空港に着陸するというのだ。

一応断っておくが、誤植ではない。本当に1,000名の交流団である。ブルーバードのドライバーの目前には、多忙なスケジュールが立ちはだかっている。

新たな局面へ

もしインドネシアのようなケースが世界中で相次いだら、配車サービス戦争は新たな展開を迎えるはずだ。

先述のブルーバードの取り組みは、言い換えればUberの信頼性や堅実性にクエスチョンマークを付加させるようなものだ。

「我々は国外からの政治家や財界人の皆様を、無事に目的地までお届けした。君たちにそれができるのか?」

ブンダランHI(澤田オフィス提供)

では、Uberはそれに対抗できるのか? そもそもが中小零細業者の集まりとして動いているUberに、ブルーバードと同じようなことを実施するのは難しいだろう。この配車サービスの場合は、あくまでも巷の一般利用者を主なターゲットに活路を切り開くという方針から、1ミリもはみ出ることはないはずだ。

だが、Uberを待ち受けているのは結局、法規制という壁だ。インドネシアでも最近、バンドゥン市のリドワン・カミル市長がUberを「違法な事業を行っている」と判断した。

現時点で行政執行はまだないが、カミル市長は自らUberの現地法人に電話をかけ「正規の投資プロセスを踏まえてから営業するように」と嘆願したそうだ。愛妻家として知られ、アタリア夫人とのツーショット写真をよくFacebookにアップするこの市長は、Uberに対しては厳しい意見の持ち主だったようだ。

世界を席巻していると思われたUberが、いつの間にか防戦に回っているというシナリオが徐々に見えてきた。

【参考・画像】

BLUE BIRD GROUP

※ ハローG

※ ハローG、尼ブルーバード社と日本初の代理店契約を締結 インドネシア主要都市の空港送迎、チャーターの事前予約サービスを開始 – ハローG

※ 観光、経済両面での交流拡大を狙う1000名の「日インドネシア文化経済観光交流団」を11月に派遣 – トラベルWatch

※ 米ウーバー、インドネシアで違法判断 – 日本経済新聞

※ Ivakoleva / Shutterstock

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