開幕トップバッターであるBMWチェアマンの転倒に始まり、開幕直後のフォルクスワーゲンによるディーゼル不正問題発覚まで、今年のフランクフルトは、まさに驚きのショーとなった。そして、その取材を通して得た未来への私見をここで述べさせてもらいたい。
ショーを賑わせたトレンドは各社SUV
まず、今回のショーの最大のトレンドはSUVだ。ドイツ勢を含む欧州ブランドはもとより、日系ブランドまで、あちこちのブースでSUVのコンセプトカーや新型量産車を目にすることができた。
実のところ、SUV人気はフランクフルトに限ったことではなく、中国やアセアン、インドでも同じだ。もちろん、SUV大国のアメリカは言うまでもない。つまり、世界全体でSUVの地位が高まっているのだ。
その上で今回のショーで思うのは、メルセデスベンツやアウディ/フォルクスワーゲン、BMWといったドイツ・ブランドの用意するSUVは、意外と古典的だなということ。
オフロード走行を想定した本格的四輪駆動へのこだわりが感じられたのだ。
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一方で、日系ブランドは、SUVといっても、オンロードを前提にしたような、いわゆるクロスオーバーが主流だ。トヨタも日産もマツダもクロスオーバーのコンセプトである。
もちろん、SUVの本道からいえばドイツ勢が正しい。しかし、世界を見渡すと、求められているのはちょっとだけロードクリアランスに余裕のあるクロスオーバーであったりする。別にFFでも問題ないのだ。
そういう意味で、世界的なトレンドの先取りは、ドイツ勢よりも日系ブランドの方が上手だなと思う。2020年の世にはSUVが今よりももっとたくさん走っているだろうが、それはきっとクロスオーバー風が多いのではないだろうか。
目立ったPHVコンセプトカー、しかし本命は「48Vシステム」?
次に目についたのはプラグインハイブリッド(PHV)だ。ドイツ勢のコンセプトカーといえば、ほとんどがPHVだ。量産車としても、フォルクスワーゲンは、ゴルフやパサートにPHVのGTEを設定。つい最近、BMWもX5のPHV版である『X5 xDrive40e』を日本に導入している。
では、2020年になると世の中はPHVだらけになるのか?
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個人的には、その可能性は低いと思う。確かにPHVは、便利でクリーンな乗りものだ。しかし、普及するには高コストという大問題をクリアしなくてはならない。いくら素晴らしいシステムでも、生活者にとっての費用対効果があわなければ普及は厳しい。
これほどハイブリッドの普及した日本でも、2020年時点でのPHVの大ブームというのはまだまだ現実的でない。苦戦を強いられているピュアな電気自動車も同じことが言える。
では、どうなるのか? ちなみに、ディーゼルにも不正問題という逆風が吹き始めた。もちろん、燃費規制の締めつけは容赦ない。そうなると、残るのはハイブリッドしかない。しかも欧州には隠し球があった。
それが『48Vシステム』だ。
今回はコンチネンタルなどのサプライヤーのブースには、「市販化間近!」と謳う『48Vシステム』が数多く展示されていたのだ。
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これは、発電に使うオルタネーターを、減速エネルギー回収と加速のアシスト用モーターに利用するというもの。日産やスズキが採用する、マイルド・ハイブリッドと同様のシステムである。ただし、欧州勢は、システム全体の電圧を日本の4倍である48Vに上げた。それだけ馬力が出せるし、燃費向上の効果も大きく期待できるのだ。
大げさな電池やシステムがなくても、簡単にハイブリッド化が可能。費用対効果に厳しい目を持つマーケットでは、こうした簡単なシステムが好まれそうだ。つまり、2020年の人気パワートレインは、『48Vシステム』になる予感がするのだ。
発達するインターフェイス
そして最後に気づいたのはインターフェイスだ。現在、自動車業界が開発に力を注ぐのは、“燃費向上技術”と“自動運転技術”。特に自動運転には、クルマとクラウドとの情報伝達が重要になる。そのためクルマのエレクトロニクスは、今、驚くべきスピードで進化している。
また、完全な自動運転の手前での運転支援システムも次々と実用化されている。そのときにドライバーへ、どのようにシステムがサポートするのか? さらには自動運転が実現したときにドライバーは、何をしているのか? 問題となるのは、人とクルマの接点となるインターフェイスだ。
今回のショーでは、そうした人とクルマの新しいインターフェイスを数多く見ることができた。例えばフォルクスワーゲンは、ドライバーが空中で手を動かせば、クルマがそれを認識して、窓やサンルーフの開閉、オーディオや空調の調整ができるシステムを披露。ドライバーの動きは、赤外線レーザーやカメラで認識するのだ。
また、触ったときの手触りが変化したり、押すとクリック感が返ってくるタッチスクリーンのプロトタイプもあった。自動運転中に液晶モニターのメーターにユーチューブなどを表示して、その操作はステアリングに仕込んだマウスパッドで行うという提案も。更には、自動運転中に邪魔になるステアリングを移動させる展示車まで見つけてしまった。まさに驚きの提案の数々であった。
そうした次世代技術だけでなく、すでに実用化が進んでいる技術もある。
例えば、メーター全体を液晶モニターにするのは、メルセデスベンツSクラスだけでなく、アウディA4やパサート、ティングアンなどに増加している。ヘッドアップディスプレイも珍しいものではなくなっている。そう考えると、2020年のクルマのインターフェイスは、相当に進化しているはずだ。
欧州きっての技術大国であるドイツ。その地のモーターショーは、やはり最新技術であふれていた。未来を予測する手がかりを数多く見つけることができたのだ。
【参考】
※ IAA 2015