長野県池田町の街並みを眼下に眺めながらから、少し山を登った中腹に静かに佇む宿、『八寿恵荘』は、その存在を自然の中に溶け込けませている。
館内に入ると、カモミール(カミツレ)や木の香りが漂い、思わず深呼吸をしたくなるほど。
それもそのはず、内装は、8種類もの地域材をふんだんに使い、自慢のお湯はカミツレのエキスがたっぷり入り、『華密恋(かみつれ)の湯』と名付けられている。
カミツレの畑は宿を囲むようにあり、その広さは約8,000坪。収穫期の6月になると、周囲は黄色の花芯をもった可憐な白い花で埋め尽くされるという。
このカミツレは、宿の隣に併設された自社工場で、入浴剤に加工されている。
|
|
入浴剤としてだけでなくオーガニックスキンケアにも
農薬を使用せず丁寧に栽培され、手摘みで収穫されたカミツレは、花だけでなく茎も葉も残されることなくエキスに抽出される。消炎や保湿効果に優れたカミツレの湯は、身体が芯から温まり、肌がしっとりする。
他の地域も含めて栽培される13万株ものカミツレは、入浴剤だけでなく、この宿で使われるシャンプーやせっけん、化粧品などアメニティすべてに使われ、オーガニックスキンケア商品として販売もされている。
宿では、カツミレが食事のメニューやデザート、ハーブティーにも使われ、まさに五感を通じてその豊かな恵みに触れられる。
『カミツレの里』と呼ばれるゆえんだ。
自然素材、オーガニック、自然エネルギーを体感
この『八寿恵荘』、アジアで初の『BIO HOTEL認証』をとった宿としても注目を集めている。
|
|
ビオ(BIO)とはオーガニックのこと。宿で提供される食事、コスメ(シャンプー・石けん・スキンケア用品)は、すべてオーガニック。
タオル、ベットリネン類、施設の建材や内装材も可能な限り自然素材の使用を目指し、滞在するゲストの健康や自然環境に配慮した健やかで安らぎのあるホテルを『BIO HOTEL』と呼ぶ。これらは、オーストリアにある『BIO HOTEL協会』が定めた厳しい基準により認定される。
認定を受けたホテルは、ドイツ、オーストリア、イタリア、スイス、など7か国で約100軒(2013年10月現在)ほどだが、同宿は2015年の5月にリニューアルをし、ヨーロッパ『BIO HOTEL協会』の公認を受け発足した『BIO HOTEL JAPN』より、日本で最初に『BIO HOTEL認証』を受けた。
宿で使われているもの、触れるものすべてが自然素材なので、あえて宿にはスリッパが置いていない。アカマツの無垢材を利用した床は裸足で歩くと本当に気持ちがいい。
漆喰(しっくい)や珪藻土(けいそうど)の壁も木材と同様に呼吸をし、調湿機能があるからだろうか、空気の質を高めてくれる。肌に触れる布団やリネン類、タオルなども認証をとったオーガニックコットンを使い、眠りの質にもこだわっている。
|
|
宿では自然エネルギーも活用している。地元の森林組合から虫くいなどで製材に適さない木材を木質チップとして購入し、ボイラーで燃料として炊いて給湯や床暖房などに使っている。いわゆる“木質バイオマス”の活用だ。また、ダイニングには薪ストーブ、最近では、外に薪で炊けるかまども設置された。
時には、薪割りをしてかまどで火をおこしご飯を炊いてみるという貴重な体験も味わえる。里山では地域の木材がエネルギーであったことを実感できるだろう。
ハードルの高い食事のBIO認証、その素材の味は滋味深い
食事ももちろん、オーガニック素材を使い、BIO認証基準をクリアした農産物を使っている。
宿のオーナーの北條裕子さんは、「食事の基準を満たすのが一番難しい」と話す。
野菜は敷地内の自社農園でも有機栽培するなどしているが、肉類、魚類などの認証済みのものは、なかなか手に入りにくいのだ。素材にこだわり、手をかけて調理された料理は、素材の味が濃く、滋味深い味がした。
『八寿恵荘』では、リニューアル前から、アトピーなどのアレルギー疾患をもつ方やがんを経験した方たちをサポートする活動をしてきたという。北條さんによると、最近はアレルギー疾患は大人にも増えていて、その原因のひとつがストレスだという。
そのため、今回都会で忙しく働く女性が、宿に滞在し、自然体験やヨガなどをすることで、どれだけストレスケアに効果があるかということを確かめるモニターツアーを実施した。
医師が随行し、到着後と滞在後に医療的な機器によりストレスの度合いをチェックするというものだ。筆者もそのテストを受けたが、自律神経測定などでは明らかに好転する数値が出た。
「BIO HOTEL」で自然のリズムを取り戻す
北アルプスを望む大自然に囲まれ、農作業をし、ゆっくりカミツレのお湯につかる。そして、衣食住すべてにこだわった自然素材に触れ、味わう中で、都会の追われる生活とは異なる自然のリズムが戻ってきたのだろう。
さまざまな病気の誘因ともなるストレスを侮らず、時にはこんな場所で自分をほぐしてあげることも必要なのかもしれない。
【参考】
※ 八寿恵荘
※ 華密恋
※ BIO HOTELS JAPAN