最近、職業ライターとしての筆者にこんな質問が寄せられる。
「体力アップに効果的な運動の仕方を教えて下さい!」
どうやら筆者がスポーツ選手で、それも“相当にやり込んでいる人”として知られてしまっているみたいだ。これにはかなりの誤解がある。格闘技選手の端くれであることは確かだが、正直アスリートとしての運動神経に恵まれなかった万年三流選手だ。そうでなければ、今頃は格闘家としてメディアに名を売っている。
ただ、そんなしがないダメ選手から見ても、最近は“ちょっとした運動”というものに関心を持つ人が増えていると感じる。あまり疲れたくはないけれど、少し身体が温まる程度に身体を動かしたい。
日常生活に馴染むレベルの運動を毎日やりたい。ちょっと前までは「ダイエットしたいから」という理由で激しい運動に臨む人が多かったが、今は体重を落とすことよりも、これから出かける予定の行楽のために体力をつけておきたいという人が増えた。
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そんな皆さんのために、今日は日常生活に支障の出ない“ちょっとした運動”をご紹介しよう。
つま先で地面を蹴るように歩く
歩くことは、本来ならかなりレベルの高い運動である。人間は誰でも数十キロの重りを先天的に背負っている。一歩歩くたび、その数十キロの負荷が大腿や膝、ふくらはぎ、足首にのしかかるのだ。
そもそもがそうなのだから、アスリートでない一般の人がスタミナを振り絞って走る必要は、どこにもない。歩くこと自体が、すでに一種のウェイトトレーニングなのだ。横方向に早く進むことよりも、“地面を蹴っている”という感触を、一歩一歩確認することが大事である。
その際に、足首をより大きく動かしてみよう。地面をつま先で蹴るのだ。すなわち足が接地する時は、踵から入るようにする。この歩き方は、筋トレの『スタンディング・カーフレイズ』と同様の効果を生む。ふくらはぎを鍛える効果だ。
格闘家は歩けない?
ところで“脚力”とは何だろうか?
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我々格闘技選手の口から出る“脚力”とは、言い換えれば“重いものを持ち上げる力”である。相手にタックルし、上にリフトする動作。またはタックルに来た相手を潰し、踏ん張る体勢。それを可能にするのは、大腿部と殿部の筋力である。
だがそれは、あくまでも格闘技という特殊な競技での話だ。一般の人にとっての“脚力”とは、ふくらはぎの筋力だ。しかもそれは、一定時間内に多くのパワーを発揮する筋力ではなく、どこまでも長く動かし続けることのできる筋力である。
ちょっとした裏話だが、筆者よりも遥かに実績のある総合格闘家ですらも「歩くことが苦手」という人が何人かいる。もちろんここで名は出せないが、中にはウィキペディアに経歴が載るような有名選手も。
この人たちは当然普段の練習やウェイトトレーニングは怠らないが、どこへ行くにも車かバイクを使っている。ジムの中で2時間3時間、長い時には4時間ほど汗を流すが、それは結局“総合格闘技の試合に耐え得る練習”だ。
総合格闘技というのは、決して試合時間の長い競技ではない。プロの試合でもせいぜい5分3ラウンドといったところだ。それに向けた身体作りに集中するあまり、30分ほどの徒歩を億劫に感じている自分に気付いていないという選手が、たまにいるのだ。
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相手を組み伏せる能力と、その身一つで遠くまで足を運ぶ能力はまた別物である。
気を付けたい姿勢
歩く際は、足首の動きだけではなく姿勢も重要だ。
一番良くないのは、猫背の状態で歩くことである。人間の頭を支えているのは背骨だが、その背骨が本来担うべき負荷を担っていないという状態が猫背である。負荷は他の筋肉が肩代わりし、その弊害として肩こりや腰痛が現れる。人の体というのは、絶妙なバランスで構成されているのだ。
もっとも、若い頃の筆者も猫背だった。それを当時通っていた道場の先輩に指摘され改善したのだが、その際に言われたのが「背骨を前に押し込めろ」だった。
猫背を正し、綺麗に歩く本来の二足歩行
「両手を後ろで組んで肩を後方へ折りたたむようにしながら、背骨を前に押しやってみろ。その状態をとりあえず5秒維持して、両手のクラッチを解く。ただし背骨はそのままだ。その状態で歩いてみろ」
先輩曰く、これが本来の二足歩行とのこと。そしてやってみると、明らかに自分の身長が高くなったかのような感じを覚えた。猫背の時とは、見える世界が違うのだ。大袈裟な表現ではない。
整体師でもあったこの先輩のお陰で、当時高校生だった筆者の猫背は3ヶ月ほどで解消した。意識しなくとも自然と背を張れるようになった、ということだ。
「正しい姿勢で歩く。どんなスポーツでも、動作の基本はこれだ。逆にそれができなきゃ、お前は何もできないんだ」
先輩のその言葉が、今も忘れられない。
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