人類史は虫との戦いだ。
14世紀ヨーロッパを崩壊の寸前まで追い詰めたペストは、ネズミの体毛の中に潜むノミが人間にも寄生し菌をばら撒いたという経緯である。
マラリアは、ハマダラカによる媒介が引き起こす病気だ。去年日本で相次いだデング熱も、ネッタイシマカなどの蚊がウィルスを運んでくる。
文明生物である“ホモ・サピエンス”の最大の脅威は、たった数ミリ程度の大きさしかない虫なのだ。
しかし、この度の、北里大・大野智特別栄誉教授のノーベル医学生理学賞受賞は、数億人にのぼる人々を、マラリアの脅威から救ったという人類史に残る大きなニュースだ。
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この、人類と蚊の果てしない“戦争”によって、人類もそのテクノロジーを発達させている。その歩みを見ていこう。
世界的企業が立ち上がる
筆者の記事ではないが、『FUTURUS』で以前『蚊を撃ち落とすレーザー』についての記事を配信した。この中で紹介されている装置は、平たく言えば軍事技術を転用したものである。
1982年に勃発したフォークランド紛争は、“新兵器の実験場”であった。イギリス軍はこの戦いで、何とレーザー兵器を導入している。
もっとも、これでアルゼンチン軍の兵器を直接破壊するというような威力はなく、あくまでも敵戦闘機のパイロットの視界を一時的に奪うものであったのだが。
だがそれが戦闘機ではなく蚊であったら、“撃墜”は容易だ。
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このように人類は、蚊との戦いに惜しみない時間と費用、そして持てる技術を注ぎ込んでいる。
例えば、マイクロソフトという企業が、現代文明の最先端を切り開いているということは誰もがご存じだと思うが、そのマイクロソフトが“蚊の駆除”に力を入れているということは案外知られていない。
「蚊は人類最大の脅威」ということを強く訴えているのはビル・ゲイツでありマイクロソフトなのだ。
そんなマイクロソフトが、ドローンを使った蚊の駆逐プロジェクトを始めている。
これは病原ウィルスを持った危険な蚊を採取し、その運搬をドローンにさせようというものだ。
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こうしてウィルスを保有した蚊のゲノムが解析され、将来的にはワクチンなどの開発を実施できるという寸法である。
LEDで蚊を減らす
日本の研究機関も、斬新な蚊の駆除方法を日夜研究している。
今年、東北大学院の研究グループがLEDを使った実験結果として、「青色の可視光には殺虫効果がある」ということを発表した。
今やありふれたツールである青色LEDだが、この光を蚊やハエの幼虫に当てれば駆除できるというのだ。
これが虫除けグッズとして将来商品化されれば、先述のレーザー光線よりも遥かに手軽なものとなるのではないか。
しかもレーザー光線の場合は「飛んできた成虫を迎撃する」というものだが、青色可視光の実験のコンセプトは「蚊の発生源でLED装置を光らせ、幼虫の段階で駆逐する」というものだ。蚊の数を減らすのにより効率の良いやり方は、やはり後者ではないだろうか。
人類と蚊との対決は、常に科学の発達とともにあるのだ。
【参考・動画】
※ Project Premonition aims to use mosquitoes, drones, cloud computing to prevent disease outbreaks Next at Microsoft
※ ハエ・蚊は青い光が苦手 駆除効果・東北大院 – 河北新報
※ Project Premonition: Seeking to prevent disease outbreaks – YouTube
【画像】
※ Africa Studio / Shutterstock
※ まちゃー / PIXTA
※ ダンボール大好き / PIXTA