【人類と蚊・中編】NO MOREデング熱!途上国の命を救う鍵を握る「雑貨屋」

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2015年10月08日 21:10  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

※前回の記事 【人類と蚊・前編】最新テクノロジーで蚊を迎撃する http://nge.jp/2015/10/07/post-118995

前回お伝えした「人類と蚊の戦い」は、先進国の最先端テクノロジーを動員したやり方でのものだ。

だが現実問題として、蚊が運ぶ感染病に悩まされているのは先進国の国民ではなく、新興国や発展途上国の国民だ。

例えば『デング熱』は日本では“珍しい病気”で済まされ、去年の流行の際にも死者は出なかった。

我が国は国民皆保険制度があり、低負担での診察や薬の処方を受けられるからだ。もちろん、そのような国は地球上でも恵まれている数少ない中の一つである。

そのような制度がない国では、『デング熱』や『マラリア』は死を呼ぶ病だ。だからこそ、蚊は他のどの生物よりも恐れられている。

そのような国にオフィスを構える防虫用品企業は、大変な責任を背負っているのだ。

企業と雑貨屋「ワルン」

インドネシアの防虫用品市場で存在感を見せているのが、日系メーカーのフマキラーである。

フマキラーの現地ビジネスは、貧困層の市民を主な対象にしたものである。

だがそれは、貧しい人々から少ない資産を搾取するというニュアンスでは決してない。それどころか、フマキラーはインドネシア市民の“命”を守っているといってもいい。

同社の製品は、現地市民の間でも評判が良い。蚊取り線香一つ取っても、巻きの幅が均一で煙が少ない。他社の製品には作りが非常に雑なものもある中、フマキラーはやはり別格だ。

だが、どんなに素晴らしい製品も消費者に買ってもらわなければ意味がない。そして防虫用品というものは、農村部や地方島嶼部の市民にも普及させなければいけないという絶対条件がある。

最低法定賃金がようやく200ドルに届いたインドネシアの首都ジャカルタだが、農村部はそうではない。

月に50ドルほど稼げばまだいいほうで、中には20ドル程度がやっとという農家も存在する。そういう家にも蚊取り器具を買ってもらおう……、というのは至難の業なのだ。

鍵を握るのは、どの集落にも必ずある2、3軒は必ずある、雑貨屋としての機能を持つ個人商店である。インドネシアではこれを『ワルン』と呼ぶ。『ワルン』は、卸売を担当する『グロシール』と常につながっている。

ヒットしている商品があると知れば、『グロシール』に「この商品をウチでも扱いたいんだが、在庫はあるか?」と相談に来る。

だからメーカーの営業社員は、必ずワルンに足を運ぶのだ。

信頼厚いワルンの店主

『ワルン』は雑貨屋としての機能に加え、喫茶店としての役割を担っていることもある。近所の人々は、午後のティータイムを『ワルン』で過ごす。口コミや情報交換はそこで行われるのだ。

インドネシア国民は、統計よりも噂を信じる。そして『ワルン』の店主の信頼は絶大だ。この国のネットワークは、『ワルン』なしでは語れないのだ。

「この会社の蚊取り線香は効果絶大だ!」

店主がそう言いさえすれば、客の手はその商品に伸びる。だが「そう言いさえすれば」に達するまでが大変だ。そもそも店主は大企業の提灯持ちのために嘘などつかないし、そんな彼らを納得させるにはまず試供品を配り歩く段階から始めなければならない。

筆者は以前、インドネシアの紙おむつ市場についての記事を手がけたが、要はそれと同じである。

スーパーマーケットなどの大型店舗でのセールスは、後回しでも構わない。消費の主役は庶民であり、その庶民が一番利用する店は『ワルン』なのだ。

そして『ワルン』への営業が結果として、新興国の医療に貢献しているのである。

決して最先端のテクノロジーだけが“除虫”に役立っているのではない。流通ネットワークを抑えることも“除虫”の普及にとって重要な施策なのだ。

【参考・画像】

※ 「ポスト・ジャカルタ」を目指せ これだけ違う地方間の人件費 – Walkers インドネシア

※ 特集(上) 日系大手2社 伝統市場で草の根営業 ワルン攻略 流通の鍵 – ジャカルタ新聞

※ szefei / Shutterstock

※ Graphs / PIXTA

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