野球賭博問題で再び明るみに、プロスポーツ界と裏社会の「つながり」

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2015年10月09日 18:00  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

50歳まで現役を続けた『球界のレジェンド』山本昌投手の引退登板という大ニュースに、大きなヒビが入ってしまった。

巨人所属選手による野球賭博問題が、そのヒビを作ったのだ。

筆者はここ数日、インドネシア高速鉄道計画の記事を複数のメディアで手がけていたが、こういう生活をしていると日本のトップニュースには疎くなってしまう。

だがこの事件の発覚は、遠い南国にいる筆者の胸にも深く突き刺さった。今時、このような不祥事が発生するのか。

5年前の大相撲力士による野球賭博事件を受け、日本のスポーツ界は綱紀粛正を徹底させたはずである。あの時は現役の関取、しかも大関が相撲協会から追放された。

これは角界のみならず、見に覚えのあるプロアスリート全員を震え上がらせた。

どうやら、その時の恐怖を忘れてしまっていたらしい。

ギャンブルは最高の娯楽

もっとも、野球選手とギャンブルの関係は昔からよく囁かれていることだ。

たとえば高校か大学を卒業すると同時に、あるいは社会人チームで活躍した後にドラフト枠で入団した選手は、当然ながらそこで契約金と年俸を手にする。

それは大抵の場合、本人にとっては今まで目にしたことのない数字である。これだけで金銭感覚を狂わせるには充分なのだが、さらにプロ野球選手というのは行動範囲があまり広くはない。

オープン戦とペナントレースのスケジュールに縛られ、居住している宿舎にも門限がある。やや語弊のある言い方を敢えてするが、“普通”にしている分には、プロ野球選手は娯楽に恵まれないのだ。

そういう視点から考えると、ギャンブルは短時間で最高の興奮を得られる素晴らしい娯楽である。

しかもプロ野球選手は金も持っている。いや、本当は来年の税金や将来設計を考えると大した可処分所得は持ち合わせていないのだが、先述の通り巨額の契約金のせいで、金銭感覚が正常でなくなってしまった者もいる。もっとも、プロ野球選手の契約金は“退職金”とも言われる大切なお金なのだが。

たとえば数年前に引退した人気野手のA氏は、プライベートでも派手に“打つ”ことで有名だった。

パチンコや公営ギャンブルに万札を流し続け、最終的に自己破産してしまった。引退後わずか数年での自己破産というのは最悪のタイミングで、来年の行方すら知れないプロ野球選手は常に引退後の運転資金を考慮に入れなければならない。

現役を引退した後も指導者として球団に居られるのは、実績がありなおかつ運も強い、ほんの一部の人間だけだ。

そういうことを頭では分かっているが、やめられない。射幸心を煽られ続けた結果、感覚が麻痺してしまうのだ。

現に今回の事件の当事者である巨人軍投手は、何と自らの巨人戦や高校野球をも賭博の対象にしていたというのだ。本人がどう主張しようと、客観的に見ればこれは「彼の頭から判断力が失われてしまった」ということになる。

「黒い霧」の影響

野球賭博といえばもうひとつ、『黒い霧事件』が思い出される。

これは1969年から約2年の間に次々発覚した違法賭博問題で、複数球団の選手が野球賭博に絡む八百長やオートレースでの不正に関わっていたというものだ。

まさに芋づる式に発覚し、当時の野球ファンを大いに失望させた。

スポーツはやはり、しばしばギャンブルの対象とされる。野球に限らず、特にテレビという革新的なメディアツールが誕生する前は、裏社会でそうした賭場が開かれていた。

ところがテレビが家庭に欠かせないものになり、テレビ局そのものが報道機関としての役割を担うようになると、スポーツと裏社会とのつながりを排除しようという動きが活発になった。テレビ放映による収益が、違法賭博という危ない橋を渡るよりも、よほど大きなものだったという理由もある。

逆に言えば、この手の事件が発覚すると必ず暴力団とのつながりが取り沙汰されるということだ。

現に今月、新潟県警が野球賭博を実施したという疑いで神戸の山口組総本部を家宅捜索した。もちろん山口組系組織と巨人軍選手の一連の行為は関連しているのかどうかまだ不明だが、裏社会の組織にとって、野球賭博は大きな“シノギ”の一つであることに変わりはない。

2020年の東京オリンピックに向け建設が進められている新国立競技場は、果たして完成が間に合うのかという懸念がある。

だがそれよりも、プロスポーツ界につきまとう暗黒を振り払うことのほうが先決ではないのか。もし暴力団がオリンピックを利用した賭場を開帳し、それが発覚したとなれば、日本スポーツ界は修復不可能のダメージを負うだろう。

そういった面でのプロスポーツへの監視は、決して怠ってはならないのだ。

問われる運営者の手腕

だがそのようなことを、格闘技選手でもある筆者が堂々というのはおかしいかもしれない。というのも、日本の総合格闘技界は細分化しすぎたせいで、裏社会からつけ込まれやすい状況を自らつくってしまったからだ。

前田日明氏が2008年に『THE OUTSIDER』を立ち上げてから、日本各地で『地下格闘技』を名乗る興業団体が一気に増えた。だがそれらは、はっきり言えばピンキリである。「選手の実力云々ではなく、正統的な方法で格闘技の興業を行っているかどうか」という問題だ。

実を言うと、純粋に格闘技だけで観客の興奮を呼び起こすということはかなり難しい。なぜなら、格闘技には両者手詰まりの“膠着”と呼ばれる状態が度々発生する。ボクシングで言うなら、何発かのパンチを出す度にクリンチ状態になってしまう現象だ。一般人がそれを見て盛り上がるということは、あまりない。興奮どころか興醒めしてしまう。

だから、もともと巨利を得る目的で始めた団体はその現実に突き当たる。そして次第に金のためなら手段を選ばなくなる。

チケットを強制的に買わせる、脅迫まがいの行為でスポンサー契約を結ばせる、そして賭場を開帳する等々。試合内容も観客のヒートを極度に発生させるためにレフェリーストップをかけなかったり、“鮫と金魚”とでも言うべき実力差のカードを組んで悲惨な結果を生み出すなど、様々な問題を起こしている。

しかし格闘技を楽しむ、あるいは格闘技発展を目的に始めた団体は、“シノギ”のことなどまったく気にしない。だからこそ、安全性が高くバラエティーにも富んだ試合を組むことができる。

ある団体では、打撃技を一切排除した“グラップリングマッチ”を行い客を集めていた。グラップリングは、数ある格闘技の中でもよりスポーツライクな競技だ。それができるのは、ひとえに運営者のモラルの賜である。

ところで、巨人軍は野球賭博問題について、既に謝罪会見を開いている。だが、我々が見たいのは企業の最高幹部が深々と頭を下げるお馴染みのシーンではない。

なぜこのようなことが起きてしまったのか、そして責任の所在と再発防止への対策を聞きたいのである。

こういう危機の時こそ、運営者の手腕が大いに発揮される。マスコミの前で頭を下げている暇など、本当はないのだ。

【参考・画像】

※ “黒い霧事件”知る評論家 元検察官の熊崎コミッショナーに懸念 – 日刊ゲンダイ

※ digi009 / PIXTA

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