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東京都内の精神科クリニックの元患者が「他の高齢患者の送り迎えや歩行訓練の補助といった労働を、無償でさせられた」として、クリニックの運営団体や関係先を刑事告訴した。最低賃金法や労働基準法に違反するとしている。東京都大田区に住む元患者の男性(50)は10月14日、告訴状が上野労基署に受理されたとして、都内で記者会見を開いた。
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この男性は、東京都台東区にあるクリニックに患者として通っていた今年4月2日から8月7日にかけて、そのクリニック内で高齢患者の送迎や歩行訓練を補助する業務を、無償あるいは時給111〜125円の低賃金でさせられた、と主張している。
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代理人の中川素充弁護士は「高齢患者の送迎補助は、患者の転倒リスクを伴う危険な作業。歩行訓練補助は治療行為にかかわる作業で、本来どちらも職員がやるべきものだ。それを他の患者にさせるなんて、他の医療現場では考えられない」と、クリニックの姿勢を批判した。
男性の弁護団は、クリニックの非常識な姿勢の背景に、悪質な「貧困ビジネス」があると指摘している。
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男性や代理人の説明によると、元患者の男性はアルコール依存症で、「デイナイトケア」という治療プログラムを受けるため、2014年9月からこのクリニックに通っていた。この男性が、高齢患者の送迎補助を始めたのは2015年4月のことだ。自力で歩くのが困難な患者が車でクリニックに到着すると、その横に付き添って、2階や3階のフロアまで案内する作業だ。
職員から「ホームヘルパーの資格を持っていたら食いっぱぐれない」「ボランティアをしていれば資格が取れる」といった趣旨の説明を受けたことがきっかけだったという。
2015年4月〜5月は「無給のボランティア」として、作業にあたった。同年6月からは「クリニックの関連会社に所属してもらう。社員として扱う」といわれ、「社員証」を手渡されたうえ、最初の数日はタイムカードも押していたという。男性は週に3日、1日当たり40人〜45人の送迎を補助した。作業時間は1カ月で約39時間に及んだが、報酬は1カ月4320円だったという。
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実際には、作業内容がいっこうに資格に結びつかず、お金も十分にもらえないため、男性は文句を言ったこともあったが、職員には笑ってごかまされたという。「途中で作業をやめたら何を言われるかわからない」と考えて、作業を続けていたと男性は話した。
男性が、不満を抱き続けながらも、このクリニックに通い続けていた理由はなんだったのだろうか。
代理人の山川幸生弁護士は「クリニックによって支配されていたからだ。その『貧困ビジネス』ともいえる構造が、この問題の本質だ」と話した。
会見での説明によると、男性が通うことをやめられなかった理由は、次のようなものだという。
(1)男性は生活保護を受けながら治療を続けていたが、クリニック関係者らの説明によって、「このクリニックでデイナイトケアを受けないと、生活保護が打ち切られる」と誤解させられていた。
(2)必要な薬が「その日に飲む分」しかもらえないため、毎日薬を飲むためには、毎日通うしかなかった。
(3)国から支給される生活保護費をクリニックが受け取って管理し、男性に自由に使わせないようにしていたため、日用品などを買うためには、毎日クリニックに通うしかなかった。
デイナイトケアとは、午前中から夜まで、医学レクチャーや音楽療法、レクレーションなど様々なプログラムを受講しながら、アルコール依存症からの回復をはかるものだ。そして、デイナイトケアの診療報酬は1日あたり1万円で、クリニックは患者1人につき、1日あたり1万円を得られる仕組みになっているのだという。
山川弁護士は「生活保護者をあの手この手で束縛して、週6日デイナイトケアに通わせれば、ひとり月25万円になる。これはまさに貧困ビジネスだ」と話した。
本来、デイナイトケアは、精神障害者の社会生活機能の回復を目的として、患者に適した治療をするプログラムだ。しかし、このクリニックで男性が受けていたプログラムは、卓球やゲートボール、ウォーキング、映画鑑賞、数字ゲームなどがほとんどで、男性の代理人は「社会生活機能の回復や社会復帰するためのものとは遠く離れていた」と指摘している。
男性は8月上旬、弁護士に相談したうえで、このクリニックに通うのをやめた。現在は他のクリニックに通院しながら、アルバイトを始めるなど、少しずつ社会に活動の場を広げているという。
山川弁護士は「このグループの運営するクリニックは、都内に4カ所あり、全体では患者数が700人程度いるとされる。単純計算すると年間20数億円の売上になる。患者によると、患者の扱いは『管理』というよりも『支配』で、なかには『まるで牧場だ』と話している人もいた。捜査や報道によって、グループ全体の実態を解明してほしい」と話していた。
(弁護士ドットコムニュース)
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