日本に来たばかりで日本語がわからない女子留学生の家に、午後10時すぎ、NHKの受信契約の担当者が突然訪問して、説明もせずに受信契約を結ばされたーー。そんな内容のツイートが10月上旬、この留学生の指導教員という大学教授によって投稿された。その投稿は1万人以上にリツイートされ、ネットで話題になった。
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担当者は「NHKは訪問販売じゃないので、夜中に訪問しても良いのです」と話していたという。大学教授は「そもそも受信契約も契約である以上、説明もせずに無理やり印鑑を押させるなど論外。一旦契約を解除させ、改めてきちんと説明させることにした」と憤っている。
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さらに、契約解除の書類を出すよう求めたところ、「書類を返すとお客様の情報がわからなくなってしまいます」と拒まれたため、NHKに直接電話をして抗議をしたところ、「ありえない対応ですね」と返答があったそうだ。
NHKの受信契約を説明もなく強引に結ばせることに、法的な問題はないのだろうか。契約として有効なのか。松浦亮介弁護士に聞いた。
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「大学教授の先生の感覚が、法的にも妥当だと思います」
松浦弁護士はこう切り出した。
「NHK受信契約については、放送法に基づいて、テレビを設置している人に契約を締結する義務があります。この特殊な法律関係については、社会的な関心も高いところと思います。
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しかし、今回のケースは契約締結義務について議論する以前に、『契約の成立』の基本的な部分に問題があるといえそうです」
このように松浦弁護士は指摘する。どういうことだろうか。
「契約締結義務があるからといって、無理やり押印等をさせても契約が成立するとはいえません。『契約』は、契約当事者の意思表示の合致によって成立するというのが大原則だからです。
今回のケースでは、NHKから『受信契約を結んでください』という申込があり、それに対して女子留学生が『結びます』と承諾の意思表示をすれば、契約が成立することになります。逆にいえば、意思表示がなければ、契約は成立しません」
今回のようなケースでは、契約締結の意思表示があったといえるだろうか。
「女子留学生からの契約締結の意思表示が認められない可能性があります。
契約締結の意思表示というからには、ある程度は契約内容を認識していることが前提になります。しかしツイートによれば、今回、NHKの担当者は、日本に来たばかりで日本語がわからない女子留学生に対して、説明もなしに無理やり印鑑を押させたとのことです。
これが事実であれば、このような状況で形式的に押印がなされたとしても、それは単に物理的に押印がされたに過ぎず、女子留学生の意思が表されているとは言えないはずです。
ここで先ほどの契約の大原則に戻ると、法的に意味のある意思表示がないのですから、契約は成立していないということになります。当然、効力も生じません。
したがって、事実関係がツイートのとおりなのであれば、NHKは再度説明をした上で、契約を結び直すべきでしょう。その際に、もし契約を拒まれても、その場で強制的に契約を結ばせる、ということはできません。
現場担当者としての立場もあるのでしょうが、訴訟等で契約締結義務の履行を求めるという正攻法で行くのが、公的組織としてあるべき姿のはずです」
松浦弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
松浦 亮介(まつうら・りょうすけ)弁護士
相続、債務整理、会社法務など民事事件を中心に扱う。NHK受信契約については契約の基本を考える良い題材として関心を持ち、コラムでも解説している。
(http://mbp-hiroshima.com/law-yamashita/column/7341/
http://mbp-hiroshima.com/law-yamashita/column/7378/)
事務所名:山下江法律事務所
事務所URL:http://www.law-yamashita.com/
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