結婚前に「夫婦の性生活を求めない」と誓約書を交わしたのに、夫が約束をやぶって性行為を求めてくるので、離婚したいーー。ネットの掲示板に、そんな悩みを抱える妻からの投稿があった。
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投稿によると、妻は過去、継父にいたずらをされたトラウマから、男性との性交渉はまったく受け入れられない。夫からプロポーズされた際にも、子どもができないこと、夫婦生活を求めたら離婚を考えると伝え、了承した夫は誓約書にサインをしたそうだ。
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しかし、夫は結婚後1年経ってから「子どもが欲しいし、君と交わりたい」と求めてくるようになった。妻が誓約書を見せても、「こんな仕事の契約みたいに決まり事を作ってするものではない」と反発されてしまった。
相談者は、結婚前の誓約書を破ろうとする夫に幻滅し、離婚を考えているそうだ。結婚前の約束を守らなかったという理由で、女性は離婚することはできるのだろうか。長瀬佑志弁護士に聞いた。
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「誓約書は無効だと考えられます」
長瀬弁護士はそう指摘する。なぜ誓約書は「無効」といえるのか。
「誓約書に書かれているからといって、どんな内容でも、裁判所が認めるわけではありません」
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誓約書の内容によっては、無効とされる場合があるわけだ。
「今回のケースでは、ご夫婦間で『結婚しても性交渉を行わないことを条件とする』誓約書を交わしています。離婚が認められるかどうかは、本件誓約書が有効といえるかどうかが焦点になるでしょう」
長瀬弁護士はこのように説明する。
「投稿者は、本件誓約書を交わす際に『夫婦生活を求めてきたら私は離婚を考える』と伝え、夫はそれを了承した上で誓約書にサインをしているということです。つまり、本件誓約書は、離婚するかどうかを性交渉の有無で決める、という内容と言えるでしょう。
しかし、社会通念からいっても、この契約は公序良俗に反し、無効と判断される可能性があります」
長瀬弁護士は、今回のケースと同様に、夫婦が交わした「誓約書」の内容に問題があるとして、裁判所が離婚を認めなかった裁判例について言及した。
「参考になる裁判例があります。ある男性が、一定金額のお金を支払えば、妻からも夫からも離婚を申し出ることができ、申し出を受けたほうは協議離婚に応じなければならない、という内容の誓約書を妻と交わしました。
しかし、裁判所は、離婚という身分関係をお金の支払によって決する内容の夫婦間の誓約書は、公序良俗に反して無効と判断しました(東京地判平成15年9月26日)」
このように、「夫が誓約書の約束を守らなかった」という理由で、妻側からの離婚請求が認められる可能性は低いようだ。
さらに、長瀬弁護士は、次のように指摘する。
「逆に、妻が夫からの性交渉の要求を拒み続けた場合、妻側に離婚原因があると判断され、夫からの離婚請求が認められることも考えられるでしょう。
性交渉の有無をめぐって離婚が争われる場合は、『その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき』(民法770条1項5号)に該当するかどうかが問題となります。
性交渉を嫌がるのに性交渉を強要したと判断されることもありますし、逆に、理由もなく妻が性交渉を拒否したと判断される可能性もあります」
今回のように、性交渉を持てない理由が「トラウマ」という場合は、どうなのだろうか?
「今回のケースでいえば、妻は婚姻前に夫に対し、『継父にいたずら』をされたトラウマにより、男性との性交渉が一切できなくなった、ということを説明し、結婚しても夫と性交渉ができないという了解を得ているようです。
このような経緯であれば、妻は理由もなく夫との性交渉を拒否しているわけではないので、妻に離婚原因があると判断される可能性は大きくないといえます」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
長瀬 佑志(ながせ・ゆうし)弁護士
弁護士法人長瀬総合法律事務所 代表社員弁護士(茨城県弁護士会所属)
「ノンストップ!」、「ZIP」、女性セブン、週刊ポスト等メディアに出演。
年間100件以上の離婚関連の相談を担当するほか,夫婦カウンセラーの資格を取得し、精神的サポートも心掛けている。
事務所名:長瀬総合法律事務所
事務所URL:http://nagasesogo.com/
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