東京都内の大学院に通う男子学生のジュンさん(24歳)は、いきつけのバーで大学の教授がキープしているボトルを勝手に飲んでしまったことを悩んでいる。
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ジュンさんが通っているバーは、一見さんは入りづらく、馴染みの常連がいつもたむろしている、こじんまりとした店だ。店員も客同士も見知った仲で、ジュンさんも、ママや親しくなった客に一杯おごってもらったことがあった。
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あるとき、ママと話していて、大学で受けている講義の担当教授がバーの常連だということがわかった。そのことを告げると、ママは「なら彼のボトルから大丈夫ね」と言って、本人がいないのに、その教授のボトルからウィスキーをグラスに注いだのだ。
ジュンさんは、店のママが出してくれたとはいえ、他人のキープしたボトルの飲み物を勝手に飲むのは問題だったのではないかと考えている。法的に問題があるのか、中村弘毅弁護士に聞いた。
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「まず、ボトルキープがどのような法律関係になっているかを確認しておきましょう。
キープされたボトルの所有権ですが、教授とお店との売買契約によって、教授が取得しているものと考えられます。
次に、教授は購入したボトルをお店にキープしてもらっています。この教授とお店の関係は、法律的には『(無償)寄託契約』と呼ばれる関係だと思われます。
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これは、受寄者(お店)が寄託者(教授)のために、ある物(ボトル)を保管することを約束して、物を受け取ることで成立する契約です」
中村弁護士はこのように説明する。
「ジュンさんは、教授が所有するボトルを、教授の承諾なしに飲んでしまっているわけですから、教授のボトルに対する所有権を侵害していることになります。
したがって、飲んでしまったボトル分の損害賠償を、教授に対して払わなければならない可能性があります」
ウィスキーをすすめたのは、バーのママだが、それでもジュンさんに責任があるのだろうか。
「教授がお店にボトルキープしてもらうにあたり、ジュンさんを含めた他の常連さんがキープボトルを飲んでもいいと『事前の承諾』があったといえるような場合は、責任を負わないとも考えられます。
たとえば、『自分が見知った他の常連さんたちにも振る舞って構わない』ということを、教授がお店のママに伝えていたような場合です。
そうは言っても、ジュンさんがお店の常連であることを教授が知らない場合、教授が飲むことを許した『他の常連さん』の中にジュンさんも含まれると言えるのかどうか、微妙でしょう」
店側の責任はないのだろうか。
「教授の許可を得ずにお客さんに出してしまったお店にも、問題は生じ得ます。今回のようにお店で保管するという場合は、商法の適用があるため、『善良な管理者としての注意義務』をもって保管しなければならないとされています。
これは、専門家(今回のケースでは飲食店)として通常期待される注意義務をもって保管しなければならないということです。
キープボトルを勝手に他のお客さんに出してしまえば、当然のことながら、この注意義務を果たしていないといえるでしょう。そのため、契約違反として、店側は教授に対して損害賠償を払う義務を負います。
また、刑事上も、他人から預かって自分が保管しているものを勝手に消費してしまうわけですから、業務上横領罪にあたる可能性もないとは言えません。
もっとも、先ほどお話したとおり、教授から見知った他の常連さんたちにも振る舞って構わないという事前の承諾があり、その『他の常連さん』にあたるかどうかの判断はお店のママに委ねられていたというのであれば、損害賠償義務はありませんし、刑事責任の問題も生じません」
中村弁護士はこのように分析していた。
【取材協力弁護士】
中村 弘毅(なかむら・ひろき)弁護士
つきのみや法律事務所所長 埼玉弁護士会所属
平成27年度埼玉弁護士会消費者問題対策委員会委員長
得意分野は、消費者事件・不動産事件・家事事件(相続・離婚等)全般・
事務所名:つきのみや法律事務所
事務所URL:http://tsukinomiya-law.jp/
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