インドネシアでも、日本のサブカルチャーは大変な人気を誇っている。
それが日系飲食企業に大きな利益をもたらしているということは先日の記事でも書いたが、今回はそれとはまた違った視点で“サブカルの影響”を考察したい。
「インドネシアは親日的な国」と言われているが、確かにその通りである。その理由はやはり、日本の“文化的自由度”の高さにあるだろう。
アニメやコミックは“自由の象徴”と見なされ、若者たちの尊敬の対象になっている。それをきっかけに日本語習得を志す者も年々増えているのだ。
また、そういった文化面で日本とインドネシアはソリが合う。実を言うと“文化的自由度”という部分は、インドネシアも共通したものを持っている。
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この国の市民の大多数はイスラム教徒にもかかわらず、今もヒンドゥー王国時代の絵画や演劇を昔と変わらず手がけている。
「異教徒の神話などけしからん!」と叫ぶのは、一般市民から冷ややかな目で見られている一部の過激派くらいだ。
そして現地に受け入れられた日本のサブカルは、現地市民の手によってさらなる成長を遂げようとしている。
地方出身のコスプレイヤー
イスラムの女性は服装規定が厳しい、というのは一種の誤解だ。
確かに、中東には頭からつま先まで大きな黒い布で覆っている女性がたくさんいる。
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だがそれは戒律がどうというよりも地域性が大きく絡んでいて、多少なりともリベラルな土地では頭髪を隠すヒジャブを被らない女性も存在する。
だから保守的な考えの場所と先進的な考えの場所とでは、同じイスラム圏でも光景が大きく異る。インドネシアのジャワ島内の都市は、やはり後者だ。
だから、サブカルが好きな女の子はコスプレにも躊躇いがない。インドネシアにも名の知れたコスプレイヤーがいる。
ジャワ島中部の都市ジョグジャカルタで先日開催された『マンガフェスト』。ここにも地元の有名コスプレイヤーが名を連ねた。
ジョグジャカルタは地方都市だが、それでも今や日本の文化が浸透している。スマートフォンを代表するインターネットツールの普及が、それを促したという背景もある。
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ジョグジャカルタ在住のユウキ・レイブンは、この町にサブカルが定着する以前からコスプレイヤーとして活動している。
しかも彼女は、市内中心地から離れた地域に住む女の子だ。ユウキ自身は以前、自分の住む土地を「農村」と言っていた。いずれにせよ、都市部の住人でないことは確かなようだ。
だがそんなユウキも、今では高級機を所有するカメラマンと組み精力的に活動している。
「地方部の女性は、都市部の華やかさから取り残され貧しい生活を送っている」
その声は決して間違いではないが、あくまでも一側面に過ぎない。
ユウキは決して金持ちというわけではないはずだが、彼女のその姿に「貧しく、寂しく」というステレオタイプな悲壮感は一片も見受けられない。
そういう女性も存在するのである。
彼女たちの原動力
もう一人、ジョグジャカルタ在住のコスプレイヤーといえばローラ・ジエタがいる。
いわゆる“可愛い系”に属するユウキとは対照的に、ローラは“美人系”だ。
そのためコスプレのレパートリーも幅広い。もし出場するイベントが3日間開催だとしたら、ローラは必ず3種類の衣装を用意する。
しかも彼女は流暢な英語を話すことができるため、外国メディアにも自分をPRすることができる。
ローラは今時の日本男児よりも積極的な女子だ。
長距離列車に何時間も揺られてジャカルタへ行き、そこで開催されるイベントに始まりから終わりまで参加する。
その間に数百人というカメラ小僧に「写真お願い!」とせがまれ、一度も拒むことなく笑顔で対応する。
全てのプログラムが終わった頃にはもちろん疲れ切っているが、一晩寝たら体力ゲージは満回復だ。ローラの全身からみなぎる元気が、イベント会場を明るくする。
「インドネシアは先進的なイスラム圏」と書いたが、そんな国にも過激派は存在する。
例えば、たびたびジャカルタの中心部で大掛かりなデモを行うイスラム防衛戦線のように。
彼らは集会の度に「女は働くべからず。良き妻になって家の中で過ごすべし」と叫ぶ。そしてそれを支持する女性もいるというのが、また驚きだ。
だがその威勢は、要するに自らの能力に自信がないからだということを大多数のインドネシア市民は知っている。
レディー・ガガの来尼コンサートの会場を放火すると宣言し、そのイベント自体を中止に追い込んだ過激派は、良識ある市民からの支持をまったく得られていない。
彼らの暴力的な言葉は、むしろユウキやローラの活動の原動力になっている。
サブカルと観光業界
さて、インドネシアで催されるサブカルイベントには、もう一つ重要なポイントがある。
日本の観光業界にとって、このテのイベントは観光客を呼び込む絶好のチャンスという点だ。
近年のASEAN諸国全体の経済成長、そして去年から実施されたインドネシア人向けの日本観光ビザ免除政策が、我が国の観光業界を大いに潤している。
これまで“日本旅行”といえば、ビジネスマンが商用で赴くという形が主なものだった。
しかし、今は違う。各旅行会社が低価格のパッケージツアーを企画し、ミドルクラスの市民にとっても手が届きそうな位置にまで“夢”が降りてきた。
ジャカルタでは、すでに「HIS」や「JTB」と書かれた看板が珍しいものでなくなってきている。
そして実を言うと、東京〜ジャカルタ間の距離はインドネシアの最西端サバンから最東端マウメレまでの距離よりも短いのだ。
メルカトル図法の世界地図で見るから距離感が狂ってしまうわけで、実際は日本とインドネシアはかなり近距離に位置する国同士である。
そしてあと5年もすれば、日本とインドネシアの距離はより近くなっているだろう。
「インドネシアには行ったことないけれど、インドネシア人の友だちはいる」ということが当たり前になるかもしれない。
何しろ、インドネシアの総人口は2億5000万人だ。もはやこの国の存在なくしてアジアを語ることはできない。
こうして考えると、地元コスプレイヤーが担っている役割は非常に重いものだということがよく分かる。
【参考・画像】
※ 牛丼はかっこいい!インドネシアの若者に浸透する「YOSHINOYA」
※ Yuuki Raven – Facebook
※ Lola Zieta – Facebook