絵本は育児の助っ人 ――親も子も絵本に助けられる

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2015年10月29日 12:01  MAMApicks

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育児とは親子の超密接な時間であり、ときとしてものすごく煮詰まってしまうことがある。子どもが小さければなおさらだ。

魔の○歳児とはよく言ったもので、本当に悪魔に見えることすらある。こんなに愛おしい存在なのに、イラッとしてしまう自分にまた苛立ちが募り、こうなるともう悪循環しか生まない。

そんなとき、第三者の介入で、ことがスムーズに運ぶことがある。
母と子の対立を父親が仲裁するといった家族間のことだけではなく、ときには他人にも助けられる。道ばたで大泣きするわが子に苦戦していたところ、見知らぬおばあちゃんに声をかけられたらスッと立ち上がって笑顔になる、なんてこともある。

そうはいっても、第三者なんてつねにいるわけではない。そこで筆者は、<絵本>にその役割を担ってもらう術を見つけた。


たまたま娘が大の絵本好きということもあって、絵本はかなりの数を読んでいる。そうすると、なかには自分たちの日常を描いたような作品がたくさんある。

約束は守ろうね、友だちは大事にしようね、といった幼児向けのネタだったり、ひとりでスプーンを持ってみよう、ひとりで着替えてみよう、というようなもう少し小さい子向けのネタだったり。そしてもちろん、トイレにまつわる絵本だってある。

トラブルが勃発してから「さあ、絵本を読みましょう」なんてうまくいくわけがないので、普段から親子共通のネタを仕込んでおくのだ。


いざというときに、絵本のネタで声をかける。

たとえば、約束を守らなければこうだ。その日たまたま読んでいた『つるのおんがえし』を持ち出した。

「おばあちゃんが約束を守らなかったから、女の子は鶴になって帰っちゃったんだよね……。」

これを寂しそうに言ってみた。
「約束は守らないとダメだよ!」と言うよりも格段に効果があったのだ。絵本の最後に出てきた寂しげな絵を思い出したのかもしれない。


ほかには、自分が伝えたいことをストレートに言う代わりに、絵本の登場人物に言ってもらうのもいい。

「あ、○○ちゃん(絵本の登場人物)もこう言ってたよ〜」

親の言うことは聞かなくても、他人が言ったことを伝聞する形だと、なぜだか受け入れられることがあるから不思議だ。


絵本のなかに繰り広げられる世界に引き込まれるのは、何も子どもだけではない。大人でも多くのことを感じられる作品が多い。

なんとなく自分の育児に悩んでいるときに、大人が手に取る本は育児書ばかりである必要はない。絵本だっていいのだ。

もともとは、娘に読まされているという感覚に近かった絵本。でも、「読んであげている」ではなくて、「(自分が)読んでいる」つもりで読むと、受け取り方が違う。それまでは、右から左にすっと流れてしまっていたストーリーも、心の中に残るようになった。感動したり、ドキドキしたり。

落ち込んでいるときは、いつもより少し感情移入して読んでみるのも面白いかもしれない。子どもは驚いて、「エッ?」というような顔をするかもしれないが、そんなことは気にしない。一冊を読み終えるまでほんの数分。でもその数分で、心が少し軽くなることがある。


これまでに出会った絵本の中で、最高傑作だと筆者が勝手に思っているのが、『おでかけのまえに』(福音館書店/作:筒井頼子・絵:林明子)。


家族でお出かけする前に起きる、あまりにも普通すぎるトラブルの数々が描かれている。「そうそう、そうなんだよ、だから大変なんだよ」と共感するだけで、心が軽くなった。そして、次から次へと押し寄せるトラブルに笑顔で対処するお母さんを見て、自分もまた明日から頑張ろうと思えたのだ。

これが、絵本ではなく他人の経験だったらどうだろうか?
ブログやSNSで絵本と同じシーンが流れてきたら、きっと私はこう思う。「私はこんないいお母さんにはなれない。えらいよね、この人……」。

そう、なぜか卑屈になってしまう。悩んでいるときならなおさらだ。実際にできている人を目の当たりにするのと、絵本の世界にいる理想の母親を垣間見るのとでは、心の受け取り方が違うのだろう。

こんなふうに絵本には、たくさんの不思議な力が潜んでいると思っている。これからも、絵本に助けてもらいながら毎日を乗り越えていこう。

西方 夏子
電機メーカーにて組み込みソフトウェアの開発に携わったのち、夫の海外赴任に帯同して5年半ほどドイツで暮らす。2012年に同地で長女を出産後、日本に帰国。現在はフリーでiOSアプリの開発や書籍の執筆を行う。

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