今週27日、アメリカ海軍第7艦隊所属のイージス駆逐艦「USSラッセン」(アーレイ・バーク級)は南シナ海で中国が造成した人工島から12カイリ以内を含む海域を航海しました。
中国は人工島から12カイリの海域を領海と主張していますが、人工島として埋め立てる前までは、元の島は満潮時に海面下に沈んでいたために、国際法上は領有権主張が認められません。今回の哨戒活動がアメリカの主張する「航行の自由」を確保するための行動であることは明白です。
オバマ政権は、この哨戒活動は継続して実施すると言っていますが、では、どうしてこのタイミングで始まったのでしょうか?
1つには、オバマ政権のアジア外交の中で計算されたタイミングということです。9月に行われた米中首脳会談で、オバマ大統領は習近平主席に対して、南シナ海における国際法遵守と「航行の自由」の確保に関する主張をしていて、これに対して習近平主席は「自国の固有の領土」だと反論したようです。この応酬を受けて、オバマ政権はその立場を行動で示したと見られます。
また今週の中国では、政府首脳による「5カ年計画策定」の会議が行われています。そこで示される今後の成長見通しは、米国経済にも世界経済にも大きな影響があります。ですから、その見通しが出る前に「中国は国際ルールに従った国家と経済の運営を」というメッセージを送るという意味合いもあると思います。
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さらに週末にはソウルでの「日中韓首脳会談」も予定されており、中国へのプレッシャーはその前のタイミングで仕掛けた方が効果的という計算もあったことが推測されます。
2つ目は国内政治です。オバマ政権の任期は残り1年と少々となり、次期政権への「引き継ぎ」を意識する時期になって来ました。そこで、特にこの間、政権の課題として注力してきた「アジアにおける軍事・外交のリバランス戦略」を強くアピールする必要があったという見方ができます。具体的には大統領選における政策論争で、対中国外交の問題を意識してもらいたいということです。
まず共和党ですが、現在はトランプ、カーソンという「政治の素人」への支持が続く中で、「まともな政策論争」はできていません。共和党は「軍事タカ派」を抱え、加えて「反共で親日」だという先入観が、特に日本の政官財界にはありますが、実際は「ブッシュ・江沢民の蜜月」であるとか「ニクソンの毛沢東との電撃外交」など、米中関係の基軸となる判断は共和党が下してきています。
また「一国主義的」な共和党には「他国の人権」への関心は極めて希薄ということもあり、例えば「オバマ路線の否定」だとして、対中国の関係改善に動く可能性は否定できません。
そんな中、今週28日には第3回の共和党の大統領候補によるテレビ討論が、経済専門局のCNBC主催で行われます。そこで経済問題の論戦が行われるのであれば、対中政策に関する議論は不可避であり、その前にこうした行動でプレッシャーをかけたという考え方ができます。
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一方の与党・民主党ですが、22日の「ベンガジ喚問」をクリアしたヒラリー・クリントン候補は一気に勢いを盛り返し、一部の世論調査では支持率を50%以上としています。バイデン副大統領の出馬もなくなった現在、大統領のイスに大きく近づいたことは否定できません。
そのヒラリーですが、95年に国連女性会議のために訪中した際に「会議場では人権が議論されているのに、会場を一歩出ると人権問題の議論が禁止されている」という社会への「根本的な疑問」を感じたとして、以降は中国の共産党政権に対する厳しい姿勢で一貫しています。
今回の哨戒活動の「根本思想」と言える「航行の自由」という考え方は、ヒラリー自身が国務長官として、2010年7月にベトナムのハノイで行われた「ASEAN地域フォーラム」で「ブチ上げた」ものに他なりません。
そんなわけで、ヒラリーは中国から見れば「宿敵」なのですが、では現在はどうかというと、さすがに大統領を目指す以上は「中国キラー」の看板をつけて回ることは避けたいわけです。例えば、10月13日のテレビ討論で、ジム・ウェッブ上院議員(元海軍長官)が「米国の最大の課題は中国の脅威」だと述べた際にも、その議論にヒラリーは乗りませんでした。中国警戒発言を「封印」している気配があります。
発言の封印だけならいいのですが、オバマ政権として、それこそ国務長官時代のヒラリーも協力して作り上げたTPPに関して、労組票を意識して(あるいは当面の敵のサンダース候補を意識して)はっきりと反対に回っている、これはオバマとしては困ります。環太平洋に開かれた貿易ルールを普及させ、中国もそのルールに従うよう導くという構想を否定するということになるからです。
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今回の哨戒活動の10月27日というタイミングは、外交日程を考慮して、そして11月に入ると「残り1年を切ってしまう」米大統領選を意識した上での決定だとも考えられ、かなり緻密に計算されたものだと言えます。
ちなみにアメリカの世論は、このニュースには強く反応していません。ニュースでの扱いも限定的で、あくまで冷静な対応をしています。
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