ミャンマー政府の主導で進むロヒンギャ絶滅作戦

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2015年11月05日 16:51  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

 ミャンマー(ビルマ)で暮らす少数民族のロヒンギャ族を取り巻く状況は、ホロコーストやルワンダ大虐殺に匹敵する「ジェノサイド(集団虐殺)への最終局面」に入っている。しかも迫害を主導するのは政府の最上層部だ──歴史的な総選挙を目前に、英ロンドン大学クイーンメリー校の「国際国家犯罪イニシアチブ」が、18カ月にわたる調査の結果を発表した。


 ロヒンギャ族絶滅作戦がミャンマー政府によって30年前から進められていることを示す「有力な証拠」が見つかったという。106ページの報告書には、入手した公文書や詳細な目撃証言などを根拠に、深刻な食料不足や雇用機会・医療サービスの欠如、イスラム教徒以外の村民や仏教徒から受ける差別や暴力の実態が克明に示されている。


 ロヒンギャ族はミャンマーに住むイスラム教徒の少数民族。110万人ほどいるが、基本的人権は否定されており、政府は彼らの存在を同国の歴史から抹消しようとしているらしい。


 ロヒンギャ族はレイプや拷問、殺害、恣意的な拘束や土地の接収などの人権侵害を受けている。居住地や移動の制限、散発的な虐殺も行われ「政府は長期的に、この集団の弱体化と排除」を図ろうとしているという。


 政府はロヒンギャ族を自国民と認めず、赤ん坊が生まれても出生証明を発行しない。彼らは今度の選挙で投票も立候補もできない。「ジェノサイドは、段階的に進む社会プロセスとして捉えることが重要。さもないと最悪の事態を迎える前に介入できない」と言うのは、この調査を主導した法学教授のペニー・グリーンだ。


「今回の選挙で、ロヒンギャ族の政治プロセスからの排除は一層進む」とグリーンは言う。それはホロコーストや、ツチ族を中心に80万人以上が殺されたルワンダ大虐殺に匹敵し、20世紀の南アフリカにあったアパルトヘイト(人種隔離政策)よりもひどい状況にある。


 ロヒンギャ族は不法移民やテロリスト扱いされ、彼らの暮らす西部ラカイン州では、民族主義者や仏教徒から「人種的宗教的憎悪」の標的にされている。


苦痛を与えて排除を狙う


「大量虐殺という手段に出なくても民族集団を消すことは可能だ」と、ラカイン州で4カ月の実地調査を行ったグリーンは言う(調査チームは同州北部への立ち入りを拒まれた)。極度の苦痛を与えれば、人々はその土地を去る。残った人々は無権利状態で事実上の収容所暮らしを強いられ、やがて世界各地へ散っていくことになるだろう。


 迫害は、ラカイン州の仏教徒女性がレイプ後に殺害される事件が起こったことなどを背景に12年に激化。加害者はロヒンギャ族の複数の男性とされる。何百人ものロヒンギャ族が殺され、10万人以上が家を追われた。


「事情が複雑過ぎて、迫害が起きている理由や12年に状況が急変した理由を完全には理解できない」と、グリーンは言う。確かに虐殺が激化したのは12年だが、その前から本格化していた。


 ミャンマーのロヒンギャ族の正確な人口は統計がないので分からない。ミャンマー政府はロヒンギャという民族名も否定している。グリーンによれば、政府は彼らをバングラデシュから不法入国した「ベンガル人」と位置付け、ロヒンギャ族の存在自体を認めていない。


 総選挙が終わっても、ロヒンギャ族に明るい未来はない。今年もまた、何千もの人々が貧困と迫害から逃れようと危険な航海に乗り出すことだろう。



[2015.11.10号掲載]


ルーシー・ウェストコット


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  • スーチーさんでも早々解決出来る問題じゃありません。
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