鹿児島県最北端の長島町は、長島本島ほか大小20以上の島々が点在し、温暖な気候と、豊かな自然に囲まれた町だ。
町の基幹産業は農業、漁業で、農協と漁協あわせて、年間200億円を超える売り上げを誇る。
中でもブリの養殖は海外27カ国に輸出するなど、売上高も世界一。このほか、粘土質の赤色土(せきしょくど)を活かしたばれいしょや温州みかん、デコポンなど農産物、特産物も豊富だ。
このような豊かな自然と産物に恵まれた地域だが、多くの地方がそうであるように、ここでも少子化と高齢化により人口の減少という問題に直面している。
このまま何も対策をしないと、2040年には人口7,000人となるという予測もあり、消滅可能性都市のひとつにも挙げられている。
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立ち上がったのは30歳の若き副町長
この長島町に、自らを“地域のミツバチ”と称し、地域づくりに奔走する若き副町長がいる。
30歳になったばかりの、井上貴至(たかし)氏だ。地方創生担当として総務庁から出向し、2年間の任期で今年から副町長に就任した。
政府が全国の市町村に、国家公務員らを市町村長の補佐役として派遣する『地方創生人材制度』は、井上氏自らが提案したものだ。今回、自ら作った制度を利用して、長島町にやってきたことになる。
井上氏は、入省後は、毎週末全国の地方を訪ね歩き、さまざまな町づくり、村おこしの現場を訪ね歩いてきた。
そのネットワークと知見の蓄積を、長島町でどう具現化していくか注目が集まっている。
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井上氏の信条は「多様性こそ新しい価値を生む」ということ。地域の魅力は中にいるだけではなかなかわからない。
外からの視点や、外と中の交わりによって新しい魅力が見いだせると考えている。そのため、副町長に就任以来、“地域のミツバチ”の名の通り、出会った人の名刺を仕事場に貼り、自らを媒介役として、長島町に新しい人や、情報の流れを呼び込もうとさまざまな試みを行っている。
そのひとつが、町の外からの人材の積極的な登用である。今年の10月には、大手通販サイト楽天で経験を積んだ男性を『地域おこし協力隊』の第1号として採用した。
『地域おこし協力隊』とは、都市住民など地域外の人材を地域社会の新たな担い手として受け入れ、地域力の維持・強化を図る活動であり、政府の肝いりで平成21年度からスタートし、昨年は1,500人の協力隊が生まれた。
任期は最大で3年、一人当たり最大400万円の財政支援が、総務庁からある。
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「地域おこし協力隊」をネット募集
今回、井上副町長は、町のさまざまな課題を解決するべく、24の職種で『地域おこし協力隊』の募集を、インターネットの大手求人検索サイト、ビズリーチ社の『スタンバイ』を使って始めた。
募集する職種は、町の最大の産物であるブリをブランディングしていくために、食の情報誌を編集したり、イベントを企画運営するなど島の特産物を拡販できる人。
町の豊かな自然を活かし子供向けの自然学校を企画運営する、観光ツアーを企画できる人材など、町に人を呼び込むことのできる人。また、長島町の農産物を使って洋菓子を開発、販売できる人、バイオマスを進めるための人材、長島町の資源を活用してアートを制作する人材など、その職種は幅広い。
募集期間は平成27年12月1日まで。三大都市圏をはじめとする都市地域に在住し、採用後は長島町に生活の拠点を移し、活動できることなどが条件だ。
井上副町長は、就任直後から「地方における安定した雇用を創出」、「地方への新しいひとの流れをつくる」などの目標を掲げ、ユニークな施策を提案してきた。
中には、若者のUターンを後押ししようと、特産のブリを活用した『ぶり奨学金』がある。これは漁協からブリ1匹あたり1円の寄付を受け、これを原資に、卒業後町に戻ってきた場合は、町が奨学金返済を肩代わりするという仕組みだ。
「出世魚で回遊魚のブリのように、地元に戻ってきてほしい」という願いがこめられている。一方で、「地域おこし協力隊」は総務庁の平性27年3月調査では任期終了後も、約6割が現地に残るという。
「採用する人数に上限は設けない」と話す副町長だが、多業種での『地域おこし協力隊』の募集は、町への新しいひとの流れをつくり、新たな魅力を創り上げていけるか、大きなチャレンジとなりそうだ。
【参考】