パリ時間11月13日の“その時”は、普段ならば一週間のうちで一番華やかな時間帯だった。
金曜日の夜は誰しもが浮き足立っている。パブに行ってビールを注文し、フランス対ドイツのサッカーの試合を観戦する。ボールがドイツ代表チームのゴールに接近するたび、店内は歓声に包まれる。
店の外では若いカップルが愛を語り合っている。今度の休暇はどこへ旅行に行こうか、そうだモナコへ行こう。そう言いながら二人はやがてキスを交わす。
世界中のどこにでもある、何気ない光景がそこにも存在した。人は未来を知ることなどできない。
だが街角に潜んでいた悪魔は、日常を満喫していたパリ市民を地獄の底に突き落とした。
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風と肉を切り裂く爆風、そして狂ったように火を噴くカラシニコフ銃。ごく平穏な週末のパリは、一瞬にして地獄と化した。再び動き出したテロリズムの歯車。“花の都”は鮮血の色で染まった。
そしてその血しぶきは、地球上のすべての国に飛び散った。
SNSが対策に動く
この一連のテロ事件で、SNSの社会的役割が再びクローズアップされるようになった。
まず一番に動いたのは、Facebookだった。2011年の東日本大震災の時にローンチされた安否確認ツールを改良し、それをパリ市民に提供したのだ。
これは家族や友人からの知らせを求める人々の通信回路となったが、同時に批判も起こった。なぜ中東やアフリカのテロ事件では、この機能が導入されなかったのかと。
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マーク・ザッカーバーグはそれに応え、今後は世界中の事件にも安否確認ツールを導入すると話した。いずれにせよこれは、今やSNSは社会インフラと化しているという何よりの証拠である。
またGoogleも、音声通話機能“ハングアウト”を使ったフランスへの通話を無料にしている。ハングアウトは最近、Google+から独立してアプリのメジャーアップデートも施した。
それから間もない頃に受けたテロ事件の衝撃は、図らずもハングアウトの重要性や今後の可能性を示唆する結果になった。
我が家の門は開いている
SNSには『ハッシュタグ』という機能もある。これはご存知の通り、単語の頭に『#』をつけることで、そのテーマをタイムライン化し、共有しようというものだ。
Twitterで『#PorteOuverte』というフランス語のハッシュタグが、事件直後から出回った。これは現場周辺に住む市民が「困ったら我が家に避難してくれ」という意思を示すため、積極的に使用された。
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まだ実行犯がどこに潜んでいるのか分からない時から、こうしたハッシュタグで呼びかけるのは、大変な勇気を伴う行為だ。
テロリストの狙いは常に、市民の恐怖を煽ることである。どこに行っても死の危険がつきまとう。パリをそんな状況にするのがISの目的だ。だがもはや、その目論見は完全に外れている。
避難先を提供する市民が続出した時点で、テロリズムは人々の心を屈服させることはできないと証明されたのだ。
トリコロール画像の意味
事件が起きてから、Facebookではプロフィール画像にフランス国旗を重ねることができる機能も設けた。これには賛否両論ある。
パリでああいうことが起きたからといって、他国の国旗をプロフィール画像に持ってくるのは短絡的ではないかという批判も聞かれる。
このことに関して僭越ながら筆者の意見を言わせていただければ、半透明のトリコロール画像は肯定的に捉えてもいいのではないか。
理由は二つある。一つは「ISの蛮行は許せない」という意思表示が簡単に行えること。筆者は今、イスラム教徒が国民の大半を占めるインドネシアに滞在しているが、インドネシア市民の間でもトリコロール画像がちょっとしたブームになっている。
これは「私はイスラム教徒だが、ISは絶対に許せない」というアピールに他ならない。
もう一つは、一時的にでもネット世界をトリコロールで埋め尽くすことで、IS側の流すプロパガンダフォトを下に追いやることができるからだ。
フランス人でないものがフランス国旗を掲げることが善か偽善かは、あまり重要ではないはずだ。「自分たちは包囲されている」という事実をISに自覚させることこそが、唯一にして最大の目的ではないのか。
世界は蛮行を許さない。SNSの存在によって、それが明確なものとなっている。市民の意思表示こそが究極の武器なのだ。
【参考・画像】
※ Facebookが安否確認機能の提供を拡大、パリ同時多発テロ受け – 産経アプリスタ
※ パリ同時テロ、ソーシャルメディアの役割拡大 – ウォールストリートジャーナル
※ 【パリ同時多発テロ】「避難先に困ったら、うちにおいで」Twitterで呼びかける #PorteOuverte – ハフィントンポスト
※ LUKE / PIXTA
※ Iriana Shiyan / Shutterstock