世の中には、非常にニッチな分野へ向けた製品が存在する。
需要を形成するのは、何も一般人だけではない。その道の専門家のために、有名メーカーが製品を作るということも当然ある。
今回は一眼レフカメラの話をしたいと思うが、カメラというのは“ニッチな製品”が非常に多い。
これからご紹介する『PENTAX 645Z IR』も、そのような製品の一つだ。
木簡の文字を判読する
我が国日本は、世界的に見ても重要な史跡を数多く持つ国だ。開発工事のために地面を掘り起こしたら、古代の人物名が書かれた木簡を発掘してしまった、ということもある。
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今もそのような木簡や壁画が、どこかに眠っているかもしれない。だがそうしたものは、長年の劣化で絵や文字が判別しづらくなっている。
そこでリコーは、出土文化財撮影専用カメラ『PENTAX 645Z IR』を市場投入した。
これはプロカメラマンからの評価の高い『PENTAX 645Z』をベースにしたもので、その機能は赤外波長域の撮影に特化している。すなわち、人間の目で捉えることのできない光を映す機能だ。
木簡の場合は、墨で書かれた文字がすっかり劣化して、肉眼では判読できないということがよくある。
だが『PENTAX 645Z IR』で撮影すれば、それがはっきりと浮かび上がるそうだ。
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上の写真を見る限り、消えかけている文字がかなり色濃く映されるようだ。こうしたことは一昔前までは、研究所の中の巨大な機械がやる仕事だった。
筆者もかつて発掘現場で働いていたことがあるが、出土したものを一度研究所に持ち帰って鑑定する、という作業はそれだけでも短くない時間を要した。
そうしたことが、現場にいながら行えるようになったのだ。歴史考古学の大きな進化である。
専門機関向け販売
ちなみにこの『PENTAX 645Z IR』は、一般向けの販売はされない。あくまでも専門機関や官公庁のみを対象にした製品で、発注の際に使用契約書を取り交わす必要がある。
やはりこれは、悪用される恐れがあってのことだろう。暗視スコープも最新の製品は一般販売が規制されている。
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だがそれでも、『PENTAX 645Z IR』が我々一般人に与える影響は、決して小さくはないだろう。
我が国は古い歴史を持ち、身近な所に史跡が存在する。それが故に遺跡や文化遺産の非破壊鑑定技術は、常に世界トップレベルに君臨している。
大袈裟ではない。日本の考古学研究機関は、ヨーロッパにも鑑定作業員を派遣している。
今後も日本は、歴史考古学の最先端テクノロジーを牽引していくだろう。
【参考・画像】