思わずフォルクスワーゲンの不正ソフト問題を連想させる出来事が、App Store、それもここ日本で起きていた。
『49人目の少女』や『マンガ無双』、『マンガ姫』など数々のアプリで人気を博していた株式会社Nagisaのアカウントが、10月7日にApp Storeから削除されたのだ。
特定のアプリではなく“アカウントごと”である。
そして12月11日には、サービス終了の発表が行われた。
いったい何が起きていたのか。その説明が14日に同社公式サイトに掲載された。
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アカウント停止に至った3つの原因
どうやら同社は、App Storeの審査時とは異なるアプリを配信し、それが削除されると再び審査用アプリで審査を通過する、といったことを繰り返した用だ。
その結果として、アカウント自体が停止され、全てのアプリが配信できない事態に追い込まれた。
詳細は、同社サイトの12月14日付けのニュースリリースで説明されている。
そこではアカウント停止の原因は以下の3つであったと説明されている。
■1:一般漫画作品の一部にある性的描写での規約違反 ■2: 既存アプリのアップデート未対応による広告SDKでの規約違反 ■3:コンテンツの開発環境と本番環境の出し分け
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それぞれ紐解いてみよう。
■1:一般漫画作品の一部にある性的描写での規約違反
漫画内の性描写が規約違反だったと言うことだろう。Appleから指摘されて該当箇所の白塗り修正を進めていたが、人員不足で対応が間に合わなかったという。
同社はアダルト作品を掲載していないと言っているので、一般漫画中に規約違反の描写があったということになる。
■2: 既存アプリのアップデート未対応による広告SDKでの規約違反
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同社が、過去3年間で提供した100個以上のアプリに、広告の実装部分に規約違反があったということだ。
ただし、Appleからは具体的な問題箇所の指摘がなかったため、対応しきれていない部分があったのかもしれない。
■3:コンテンツの開発環境と本番環境の出し分け
同社が審査用と本番用では異なる開発環境で対応していたということだ。
どうやら“サーバースイッチ”と呼ばれる技法で、審査通過後に審査時には隠していたアダルトなコンテンツを配信していたようだ。
これはまずいだろう、と思うが、同社によれば、漫画アプリの審査が3ヶ月以上かかることもあったため、800作以上の作品の審査が遅延することを考慮して、一部コンテンツのみが公開される環境で対応したという。
これはAppleからすれば単なるズルにしか見えない。類似の手法を使って審査を通過している他社は、今回のAppleの対応に冷や汗をかいているかも知れない。
そして同ニュースリリースでは、ユーザーに対して既存アプリケーションの停止と謝罪を掲載している。
特定のプラットフォームに依存するビジネスの怖さ
同社に起きたことは、他社でも起きる可能性がある。Appleのプラットフォームを利用する以上、Appleのルールは守るのが当然だ。
とはいえ、Appleは予告なく審査基準を変更したり、具体的な問題箇所を明確に指摘してこないこともあると言うことで、今回のNagisa社のアカウント停止に同情する向きもあるようだ。
また、似たような手法で審査をクリアしている同業者もいるに違いないが、彼らはぞっとしたはずだ。人気コンテンツなら許されるということはないことが分かったからだ。
そして、密かに慌てながら、対応作を講じているに違いない。
何しろアカウントまで停止されては、ビジネスが成り立たなくなってしまう。
特定のプラットフォームに依存したビジネス戦略の怖さが分かる出来事だが、プラットフォームを提供する側からすれば、無法地帯化を防ぐためには必要な厳しさかもしれない。
【参考・画像】
※ Dragon Images / Shutterstock