インドネシアのレジ袋有料化は、ゴミ削減と自然環境回復の足掛かりとなるか?

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2015年12月17日 18:00  FUTURUS

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FUTURUS(フトゥールス)

インドネシア政府が、その重い腰をようやくあげた。

2015年11月、インドネシア環境省は2016年よりレジ袋有料化に踏み切ることを宣言した。まずジャワ島のスラバヤ、バンドン、スマラン、そしてバリ島デンパサールの計4都市で1月からスタートさせ、様子を見ながら段階的に全国展開させていくようだ。

大手スーパーやコンビニ、大型商店などが対象で、これまで購入者に無料で提供していたビニールのレジ袋を、500〜1,000ルピア(日本円で約4〜8円)で販売するとのこと。

多くの難題を抱えるインドネシアのごみ事情を打開するための一手となるのか、世界の注目が集まる。

膨大なレジ袋消費量

バリ島随一の大都市デンパサールでは、かつてカルフールやKマートで、“レジ袋有料化”が試みられたことがある。

しかし、いずれも短期間で潰えてしまった。店側の予測以上に客足が途絶えてしまったことや、会計時にトラブルが頻発したからだ。

インドネシアの多くの人々にとって、商店で無償提供される使い捨てレジ袋は“当然のサービス”だと考えられている。

ある調査によると、インドネシア人は国民一人当たり年間で約700枚ものレジ袋を消費しているという。これは日本の約300枚やEU平均の約170枚(旧西側諸国平均は100枚以下、旧東欧圏が300枚超)を遥かに超える数字だ。

欧州(約5億人)で年間に消費される850億枚に対し、インドネシア一国(約2.5億人)で1,750億枚という計算になる。

消費量も問題だが、それ以上に深刻なのがごみ処理問題だろう。

インドネシアのほとんどの地域では、ごみは分別などされていない。

業者に回収され埋立地へ運ばれるならまだマシなほうで、多くのごみが無法図に廃棄されているのが現実だ。

ペットボトルやびん・缶などは、これらを拾い集めて生計を立てている人たちも多いのだが、レジ袋やビニールは誰にも拾われることなく、全くリサイクルされていない。

バリでは夕方になると家々から煙が立ち昇る。のどかな田園風景を背景に立ち昇る無数の煙は、まるで万葉集に歌われた古の日本の姿のようで、とても美しい。

しかし、その煙を間違っても吸ってはいけない。それは家庭のゴミを燃やす煙で、その多くはレジ袋などビニールやプラスチック製品だ。

また、ビニールを食べてしまい健康被害に陥ったり窒息死してしまう家畜も後を絶たない。

驚くことにゴミの埋立地で放牧されている牛なども多くいて、これらゴミを食べて育った家畜も、普通に食肉用として出荷されているという。

深刻な河川・海上汚染

さらに深刻なことに、環境省の調査によると、インドネシアで排出される全てのごみ6,400万トンの内、約8%にあたる500万トンが川や海に捨てられているという。

ジャカルタを流れるチリウン・チタルム川は、川面を埋め尽くすゴミの衝撃的な映像で世界的に有名になったことは、記憶に新しい。例え、直接河川や海に捨てられなくても、埋立地や山中に捨てられたゴミは、雨季の激しい降水による濁流と共に流されてしまう。

河川に流出した膨大なゴミは、川の流れを堰き止め、大雨の度に洪水を引き起こす。その主犯格はビニール類やレジ袋だ。

インドネシアの多くの河川では、いくつものフィルターを設置して、ゴミの川下への流出を防ごうとしている。

しかし、次から次へと捨てられ流されてくる膨大なゴミを除去するには、焼け石に水程度の効果しかない。

2015年には、広い洋上を漂う”漂流ゴミ”に関しての発表も相次いだ。

世界の海を漂流するプラスチックごみは推計1億3千万トンにものぼる。プラスチック類は完全に分解されるまでに数百年を要し、洋上を漂うゴミの量は年々加速度的に増えている。

最新の調査では、インドネシアはプラスチックごみの年間洋上流出量が推計129万トンとされ、353万トンの中国に次いで世界第2位と発表された。

人口比で6倍近い差がある両国であるから、海洋国家という点を差し引いてもインドネシアの汚染貢献度は突出していることがよくわかる(日本は3.6万トン)。

美しいビーチは漂着したゴミに汚され、貴重な観光資源に傷が付き始めている。漂流ゴミは潮の流れに乗って、遥か地平線の彼方まで洋上を道のように続く。その姿は、さながら海の上の天の川のようだ。

その絶望的なスケールの大きさを目の当たりにすると、誰もが言葉を失う。

マイクロプラスチック問題

これらプラスチックごみは、波に揺られ太陽光に晒されているうちに、徐々に劣化し細かく割れていく。5mm以下まで細断されたものは“マイクロプラスチック”と呼ばれ、これが近年大問題になってきている。

プラスチック類は、海中の汚染物質を集めやすい性質がある。細かく砕けたプラスチック片に有害物質がどんどん付着し、肉眼では見えにくい“毒のスープ”が形成される。これを、海洋生物が動物プランクトン群だと錯覚し食べてしまうのだ。

プラスチック片は排泄することもできるが、一緒に取り込まれた有毒化学物質は体内に蓄積されてゆく。それが食物連鎖の中で濃縮され、深刻な健康被害や致死的状態を生み出している。

最終的な捕食者である人間も、それを免れることはできない。(潮の流れの関係上、多くのゴミが集まりやすい日本近海の汚染度は深刻のようだ。複数の海域で世界平均値の数十倍という“マイクロプラスチック”が計測されている。)

解決策は?

ゴミ問題の難しさは、埋め立てにしろ焼却にしろ、完璧な処理方法が無いところだと言えるだろう。コスト面、環境面で、パーフェクトな解は無いのだ。

唯一言えることは、環境負荷の高いゴミを、極力出さない社会にしていくことが重要だということ。

先日のCOP21パリ会議でも、過去同様の光景が繰り返されたが、温暖化ガスの排出量問題では先進国と途上国の意見の相違が続いている。

しかし、ゴミ問題に関しては、排出量を減らすことに反対する者はいないだろう。

まずは、何としてでも海洋流出する膨大なプラスチックごみを減らさなければならない。

レジ袋有料化と国家規模の啓蒙活動が、インドネシア社会にどのような変化を及ぼしていくかに、来年は注視していきたい。


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【参考・動画】

TRASHED

※ TRASHED -ゴミ地球の代償- – YouTube

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