【未来探訪#004】教えて、新保先生!日本「ロボット立国」への道

0

2015年12月17日 18:00  FUTURUS

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

FUTURUS

FUTURUS(フトゥールス)

※ 前回の未来探訪はこちら 【未来探訪#003】教えて、新保先生!ターミネーターの脅威と「ロボット法」 http://nge.jp/2015/12/15/post-125141

前編では『ロボット法学会』の設立準備研究会における取り組みと意義、そしてロボットの脅威について取り上げた。

後編となる今回は、技術者と環境、そして日本が“ロボット立国”し、世界でイニシアチブをとっていくためにはどうすべきなのか、引き続き慶應義塾大学 総合政策学部の新保 史生教授と同大SFC研究所上席所員 赤坂 亮太氏に見解を伺った。

「ロボット法」の取り組みは技術者に受け入れられているのか?

−ロボットに関する法制度の整備や法的課題を研究する『ロボット法』に関する取り組みですが、技術者には受け入れられているのでしょうか?

赤坂先生、

<イノベーションは、規制が何もないところで起こるものもあれば、規制が既に存在する領域で起こるものもあります。

従って「イノベーションの足かせになるのでは?」といった議論はあてはまらないと考えています。実際に、『ロボット法学会』設立準備研究会における取り組みは、既に研究者の一部からは、新たな技術を社会に広めていくために必要なことと歓迎されています。

法制度などの必要な社会インフラが整っていないがためにリリースできていない新たな技術も、この世には沢山存在しています。

例えば警備をロボが行えば、正確かつより完璧に警備が出来ることでしょう。しかし。警備業法が人による警備の執行のみを前提とした法律であるが故に、自律型のロボットが自動的に警備するまでには、実際にはそういった新技術が投入できていない現実もあります。>

新保先生、

<法律は規則であって自然界の法則ではありません。法則を変えることは困難を極めますが、人が決める法律はそうではありません。ロボット法の分野はこれからの分野であり、今は“決めるために何を決めるべきか”を議論している段階にあります。

適切な法制度の整備は、イノベーションと社会普及を両立させる鍵といえます。

例えば、ジュネーブ条約に従うと、無人での車の自動運転は条約違反となり現時点では“出来ないこと”となりますが、技術の進化による可能性に応じて、新たなルールや解釈を、時代の要求にあわせていくことが、より法学に求められています。

新たな技術の開発も、その実装や社会での導入も人が決めていくことです。

車に例えると、技術の進歩はアクセル(開発速度)だけが注目されがちです。ただ、人が運転する車は、ブレーキ(間違った方向に行ったときに修正する機能)があるから速く走れます。アクセルだけの車は、危なくて人は乗れません。社会では普及しない、ということです。

(人間のクローンなど、)倫理上許されないものは法規制すべきですが、まだロボット開発はこの段階にはきていません。

例えば、人を滅ぼす事が出来るロボットは普及させるべきではありませんが、まずは、ロボットが何をなす事が出来るのか、どういった可能性があるのか、ということを引き出すまで、道筋を見出すことが先ではないでしょうか。

我々が提言したいのは「こういったことを考えていない現在を変えよう」ということです。>

ロボットの導入によって、人はより自由になる?

−社会へのロボット導入は、人をより自由にするのでしょうか?

新保先生、

<ロボットの導入によって人はより自由になれるはずです。人がやっている仕事が奪われるのではなく、もうひとつの側面としては、人がやりたくないことや、命がけの仕事などを代替してくれるし、その分人はより自分がやりたかったことが出来るようになる機会を与えてくれます。

例えば、完全なる自動運転が可能になるのなら、通勤時に寝ることもできるし、より自由に車での移動時間を楽しむこともできるかもしれません。

ウルグアイの元大統領が、「人の幸せは、人と生き物からしか得られない」とおっしゃっていました。抑圧的な労働を生活のためにしなければならないことが解消されるのであれば、ロボットの普及は、人がより人らしく生きていくきっかけを与えてくれるものでもあるはずです。

当然失業者が増加するリスクもあります。現にイギリスではそういった懸念を口にする学者も存在します。

産業革命時に、失業率の増加と共にラッダイト運動(機械破壊運動)を経験した国らしい懸念です。ただ大切なのは、それにより新しい産業が生まれ、新たな付加価値を生み出す可能性が生まれるということです。

歴史はそれを証明しているわけなので、今回もロボットを排除するのではなく、いかにうまく活かしていくかを考えるべきでしょう。>

「ロボット立国」の為に必要なのはリスクを取ること

−日本が“ロボット立国”する為の必要条件とはなんでしょうか?

新保先生、

<まず、日本は世界に対してイニシアチブを取り、国際的なルールや規格作りを主導することが、言語の問題などもあり得意とは言えない国です。

■1:イニシアティブを取ってルールや規格を決める ■2:新たな技術に見合ったビジネスモデルを発案し、実行する ■3:リスクを取る

といったようなことが出来ない限り、技術で優ってビジネスで負けるといった、他の技術領域における失敗を日本の産業界が再び繰り返すのではないか、というのが懸念です。

電気自動車の充電における“チャデモ”と“コンボ”方式で、日本の“チャデモ方式”が負けたことや、LED蛍光灯のソケットの規格も普及せず、同じ根っこの問題といえるでしょう。

特に、この中で日本が最も苦手としているのが“リスクを取ること”です。とある家電メーカーの技術者が執筆した書籍において、10年前から『ルンバ』と同じものを構想していたのに、リリースで出し抜かれた、と悔しがっていました。

構想と技術はあったものの、例えば「モノにあたって壊してしまう」「階段から落ちてしまう」といったようなアクシデントで機械や家具を壊すリスクをどう軽減するか、といった課題を事前に解決しようとしているうちに、『ルンバ』に出し抜かれてしまったのです。

『ルンバ』は決して完璧ではありませんでした。この両者の違いは、新たな技術の普及に際してどこまでリスクを取れるかどうか、ということがポイントとなっています。

どんなことでも、“リスク”を完全に排除し切れるものではありません。>

「ロボット8原則」で、世界スタンダードへ

新保先生、

<一方、日本人は決まったことをやることや守ることは得意です。

ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)は、数多くの日本企業は取得していますが、その元となった『BS7799』というイギリスの規格を導入していたイギリス企業は、日本企業に比べると圧倒的に少ないといえます。

今回の『ロボット8原則』を外部に広めていくにあたりやろうとしていることは、いつもの決まったことだけをやるサイクルを破っていくことです。

グローバル・スタンダードを決める時に、国際的なルールに物を言えない状況では、“ロボット立国”の妨げにもなります。

そのバックボーンを担う基本理念や原則などの考え方を、先んじて世界に問いかけていく、というのがロボット法学の一つの目的でもあります。>

ロボットが活躍する道筋を示すのは人間

新保先生、赤坂先生と両氏には『ロボット法』とロボット社会、そして人間とのかかわり合いについて深くご説明いただいた。

特に印象的だったのは、「ロボットを規制するための『ロボット法』」なのではなく、「ロボットのできること、可能性を拡げるための『ロボット法』」であるということ。

つまり、現在進行形で瞬く間に発達している人工知能やロボットを、活かすも殺すも我々人間の腕の見せどころだ。

また、日本の“ロボット立国”には、リスクを恐れぬ姿勢で積極的にイニシアチブをとっていく必要がある。

その裏で、日本では実に49%もの労働人口が人工知能やロボットにとってかわられるのでは? という試算データもある。

ロボット社会の実現で、社会がより豊かになるであろうことは疑う余地もないが、労働市場において脅威となる可能性があることもまた事実だ。

しかし、それは甘えとも言える。人間にしかできないこと、ロボットにできること、あるいはロボットにしかできないことという、労働力の供給状況を把握し、より各々のクリエイティビティを研ぎ澄ませることで、自らの道筋を示す必要があるだろう。

人工知能、ロボット、そして『ロボット法』。

もはや、これらのテーマは“他人ごと”でない“自分ごと”の時代が訪れている。

【取材協力】

※ 新保 史生 – 慶應義塾大学総合政策学部 『ロボット法学会』設立準備研究会、発起人の一人。 専門は、憲法、情報法。ネットワーク社会における法律問題を研究。現在は慶應義塾大学総合政策学部で教授を、経済協力開発機構(OECD)では『デジタル経済セキュリティ・プライバシー作業部会』副議長を務める。

※ 赤坂 亮太 – 慶應義塾大学SFC研究所 應義塾大学大学院メディアデザイン研究科KMD研究所リサーチャーにして、同大SFC研究所の上席所員。 新保氏に同じく『ロボット法学会』設立準備研究会、発起人の一人である。

【画像】

※ Julien Tromeur / Shutterstock

    ランキングIT・インターネット

    前日のランキングへ

    ニュース設定